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浪華丸の帆走操船性能について今ひとつ注記すべき事例がある。7月31日午後、6〜7m/sの風を受けて左舷詰開きで帆走中、取材のヘリコプターが指定範囲を越えて過接近し、そのダウンウォッシュ(吹き下ろし風)が突風となって船首を襲った。帆は完全に裏帆を打たれ船速は急に落ちていわゆる“in irons”の状態(miss stays、ミッシングステイとも言い、風を船首に受けたまま立ち往生すること)におちいってしまった。その後20分ばかりも帆をいろいろ操作したり、後退りの水流を利用すべく逆舵を試みたりしたが、船首を風下に落とすことも再び走り出すこともできなかった。帆が揺れ動きを繰り返したため、帆を帆桁に止めている綱がゆるんで来て一部は切断するにいたり、危険を感じてその日の実験を打ち切らざるを得なかった。

この事例に徴するに、やはり弁才型の「上手まわし」は無理ではないかと思われる。それと風の振れや波の衝撃などで詰開き帆走からこの立ち往生におちいることもあるはずで、それから脱出する手段はあったに違いないが今のところ分からない。あるいは「弥帆」の出番だったのかも知れない。弥帆は船首端に少し前傾して立てる、ごく小さい補助横帆で明治以降のジブとは違ってずっと昔から使われているのだが、今回の実験帆走では省略していた。最終の展示では装備されることになっている。

 

6. 浪華丸の操帆システムの手直しについて

 

浪華丸は材料、構造、艤装ともに約180年前の菱垣廻船にできるだけ忠実に復元建造された。しかしその艤装の一部である操帆の綱取り方法などについては今日の乗員の安全、確実な取扱いになじまない点があり、今回の帆走実験期間に限って手直しを加えたので本節ではその理由もあわせて説明する。

もっとも手直しといっても帆装の骨格をなす帆柱、帆桁、帆本体、水縄(ハリヤードとバックステイ兼用の索)や筈緒(フォアステイ)等の主要な索具は往時のままである。変更のあったのは帆の上げ下ろしと、風向に応じて帆の向きを操作する部分に限られているので、いったん所定の開きに帆が定まればすべては往時の通りであり、従って定常状態の帆走性能にも影響はない。そして実験帆走を終えて最終の展示に供する段階ではこれらの附加、改造は昔どおりの艤装に復帰する。

 

(1) 帆と帆桁(ヤード)をあわせると約1.7トンの重量がある。往時は2基の轆轤(キャプスタン)に12人がかりでこれを巻き上げたはずであるが、今日では考えられない重作業である。帆を巻き上げる「水縄」は両舷各2本あるので各舷1本づつを昔どおりの2基の轆轤(人力)で巻き、残りの各舷1本づつは12Vバッテリー駆動の電動ウィンチ2台で巻いて人力を補った。それでも帆を全部巻き上げるには軽風下にも拘わらず30分から1時間近くかかるのが常であった。

 

(2) 帆船は風を受ける方向に応じて帆の向きを変えなければならない。追い風だけなら帆は船首尾線にほぼ直角に張っておけばよいが(図4)、開き走りとなるとそうは行かない。

 

 

 

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