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(2) ここで気をつけなければならないのは、風に対する船首の向き60度というのは真の風に対してであって船に吹き込んでくる「見かけの風」は船が走っているためにもっと前に回り、いまの場合その角度は50度余りになる。さらに船上では帆の影響で風が回り、場所によって大きな違いがある。今考えているのぼり帆走では船首の向きが真の風に60度、見かけの風に50度余なのに、船尾に立てた柱の上の風向計は40度くらいの値を示していた。

昔の船頭の記録に風を船首から45度に受けてのぼり帆走した例が見られるが、船頭の定位置が船尾甲板上であったことを考えあわせるとこの船も浪華丸と同程度ののぼり角で詰め開き帆走をしていたのであろう。

また別の記録に「10里走っても風上へは2里ばかりしか進んでいなかった」というのもあるが、これは真の風と船の運動方向の角度が78度に当たり、浪華丸の75度程度と話が合っている。

 

(3) 弁才型帆船ののぼり性能に関して、今回の実験結果から若干の側面的検討を加えてみる。ポーラー線図では詰開き角度は75度程度とみられるが、一方、本船のGPS航跡記録から右舷詰開きと左舷詰開きの航跡のなす角度を測ってみると20度から30度の間にある。詰開きのぼり角度は(180°-20°〜30°)/2=80°〜75°となり、ほぼ話が合う。

もうひとつのヒントは詰開きから下手回しをして反対舷の詰開きに替えたときのコンパスコースの差は130度から135度と記録されているが、これを使うと詰開きでは真の風を(130°〜135°)/2=65°〜67.5°に受けることになり、別に測られている横流れ角10度強を加えるとこれまた詰開き角度75度から80度で大体話が合うことになる。

 

(4) 以上の考察を総合するに、浪華丸のような弁才型帆船の詰開き帆走性能は本実験で得られたポーラー線図の示すところがおおむね正しいと考えてよいであろう。すなわち真風向から測って75度くらいの方向に進み、その速力は普通の帆走日和では風速の25〜30%ということになる。

 

(5) 真追手の帆走、図9では(γ+β)=180°に当たるが、この状態では案外にスピードが出ない。逆風帆走よりはいくらか速い程度である。これは追い風では船が走るにつれて帆に当たる風が弱くなることで説明できる。

ただ同じ追い手でも帆の張りかたでかなりの相違が出てくる。図9中、3] と記入した1群は帆柱のすぐ後ろで舷から舷まで渡してある「大渡し」と称する綱に、帆の下縁から延ばした多数のロープ(帆足という)を止めている。こうすると大きな帆一杯に風を受け止めることができて十分な推進力を発揮できる(図4参照)。ところが真風向が150度より横に回ると見かけの風はさらに横風になるので「大渡し」に帆足を止めていては帆がひどくねじれてしまって具合が悪い。そこで今回の帆走では次節に述べる、帆の両下隅につけたテークルを引き合わせて帆の開きを調節した。この綱取りは「詰開き」から横風、図9で(γ+β)=120°くらいまでは最良の帆の開きを実現できるようであるが、それ以上に風が後ろに回ると帆がU字型に丸まってしまって有効な帆面積が減り、十分な推進力が出ない嫌いがある。

図9で4] で示すデータがそれに当たり、この網取りのままで真追手まで行くとさきに3] で示した方法よりもずっと劣っている。

 

 

 

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