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こうして得られた帆走性能のデータは帆走ポーラー線図の形にまとめることができる(図9)。この線図は極座標形式で、その角度目盛りは真風向から測った船の運動方向を示し、半径方向目盛りは船速と風速の比を表わす。

船に吹き込んでくる風、すなわち「見かけの風」の風向風速、海面を吹いている真の風の風向風速、そして船の速力と運動方向の三者は図9右上の説明図に見られるベクトル三角形を作っている。したがって上述の手順によって「見かけの風」の風向風速と船速と船の運動方向を測れば、このベクトル三角形の残りの1辺である「真の風」の風向風速が求められ帆走ポーラー線図上の一点が決まる。風を受ける角度を次々に変えて実験を繰り返せば帆走ポーラー線図が出来上がってくる。図9はこのようにして得られた浪華丸の帆走ポーラ線図である。

 

4. 浪華丸の帆走性能の考察

 

自然の風には多少の変動があるのが常で、船の運動もそれに応じて非定常な性質をもっている。20〜50秒程度の時間の平均を取ってはいるが、図上の個々のデータにはある程度のばらつきは避けられない。しかし何点か明らかに逸脱したデータを除けばほぼまとまっていると見られる。こうして描いた図9の帆走ポーラー線図に従い浪華丸の帆走性能について若干の考察を行なう。

(1) 最も注目されるのは本報告冒頭に述べた「開き走り」性能であろう。弁才型帆船がわが国の船舶史に一時期を画し、本邦初の本格的商船として江戸時代の物流を担うことができたについてはこの性能が大きくものを言っているからである。この視点から今回の実験においても主体を開き走りにおいている。

「詰め開き」は開き走りの極限であって、風上に向かって一番能率よくのぼって行く状態である(図5、6)。図9に1] および2] と記入した2群がそれに当たる。1] 群の右開き(右舷から風を受ける)と2] 群の左開きに差がある理由はよくわからないが、帆の調節にはかなり自由度があるのでその影響ではないかと思われる。それなら上手に帆を張れば左開きでも1] 群と同じになると期待される。

一歩控えて両群の平均を取ることにしても浪華丸の詰開き性能は横流れも考慮した上で風に対して75度近くまでさかのぼることができると言ってよいであろう。1群の線まで行けばもう少し良くなるけれども。一杯にのぼっているとき(詰開き)の横流れ角は10度強と計測されているので、船首は風に対して60度余りの方向を向いていることになる。

速力の方は今度の実験の風力4(7〜8m/s)で風速の25%程度であった。ただし今回の実験帆走時の船底汚損は著しく、厚さ10ミリ弱のフジツボが水面下全面を覆っていた。別の解析によるとこのための摩擦抵抗増加は2次元外挿法のΔCF=0.004に達する見込みで、速度損失は15%程度になる。これを考慮すると、汚損の少ない状態では風速の30%くらいの詰開き帆走速力が期待できる。これは上の例では約5ノットとなり、一昔前の焼玉機関付き機帆船の航海速力に匹敵する。

 

 

 

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