7:協力の必要性
協調、協力及び対話は、海洋資源の開発を含む海洋管理(オーシャンガバナンス)及び地域的「海洋と沿岸地域」管理の基礎である。海洋法条約の前文は、「海洋空間の問題は密接な相互関係にあり、全体として考慮する必要がある」(46)ことを認識し、調整された政策の重要性を定めている。海洋法条約の123条は、閉鎖海または半閉鎖海に接する諸国は、条約のもとで権利の行使と義務の遂行に協力しなければなならいことを明記している。
この協力の手順は、国連環境計画(UNEP)の海域計画(Regional Seas Programme)のなかに規定されている。理論上この計画は、持続可能な資源開発を含む海洋の環境管理に関する協力のための枠組を提供するものであるが、実際にはわずかな成功しか収めていない。これまでのところの成果を収めているのは主として訓練と教育の分野である。協力については参加諸国の政治的な公約に大きく依存しているため、有意義な協力という意味での十分な成果はまだ収められていない。アジア海域行動計画は、東南アジアの海域では受け入れられたものの、北東アジアではほとんど進展が見られない。北東アジアでは「海洋の保護と管理の分野おにける国際協力は少数もしくは皆無」(47)であり、「科学者と管理者の組織はごく僅かもしくは皆無」(48)である。
一方、様々な組織が地域漁業の管理における協力の促進に深く関わっている。FOAの事業の1つであるインド太平洋漁業委員会(IPFC)は、インド太平洋地域の漁業資源の開発と適切な利用に関係しており、規制力を持たない純粋な勧告組織である(49)。またFOAは、アジアと太平洋における漁業に関連した市場情報や専門的な助言を交換している太平洋経済協力委員会(PECC)の下に、1989年に設立された西太平洋漁業諮問委員会(WPECC)は、特に南シナ海と南太平洋の間を回遊するマグロ資源について、ASEANと太平洋の島諸国の共通の利益を管理している。
8:結び
東アジアの諸国は、自国の海域主権の防衛と海洋資源に対する権利の双方を、海洋安全保障に関連付けている。しかしながら、これらの安全保障上の利益を過度に追求して「公共財」よりも国益を優先することがあれば、特に資源保存と環境保護の領域で、他のより広範囲な安全保障上の問題とは相容れないこととなろう。海洋資源の開発は、包括的な安全保障と従来からの安全保障の双方の問題を抱えている。特にエネルギー分野での資源不足が深刻化し、そのため近隣諸国間で資源を防衛するための武力の衝突が発生する危険性は、従来からの安全保障の問題であり、一方、環境の劣化、動植物の生息地の破壊、魚の乱獲、種の絶滅の危険性、そして地域の海洋の汚染、これらはすべて包括的な安全保障の問題である。