これらのエネルギー傾向は、天然ガスを含む新しい資源を求める沖合いでの開発に対する誘因を加速し、需要が過去約十年間に、特に日本と韓国で劇的に増大した。最近のある論文は、「アジアに起こりつつあるエネルギー問題は経済と安全保障との間の従来の境界線を巧妙に分断した」そして「アジアの原油市場は…劇的で不安定な局面を経験させられたようである」と指摘している(5)。
東アジアは豊かな海洋資源の可能性があるにも関わらず、それらの資源開発については大きな管轄権という大きな問題に直面しており、また「汝の隣人を貧しくせよ(beggar thy neighbor)」的姿勢が魚の乱獲を招き(6)、そして、珊瑚礁、マングローブや海草床の自然環境に明らかな悪影響を与えている。陸を起源とする海の汚染はこの地域にとって深刻な問題になりつつある。東アジアの海洋環境の保護と保全、種の保存、そして海洋資源開発は、対立し、そして重複する海洋管轄権の主張と海上境界線に合意がないために非常に複雑なものとなっている。
1982年の国連海洋法会議(LOSC)で発表された新しい国際海洋法は、沿岸国に対して隣接海域の資源に対するより大きな権利を与えると同時に、海洋の資源開発と海洋環境の保全と保護についての行動指針(code of conduct)の採択をめざしたものであった。しかし、残念ながらこれらの目的は達成されていない。マーク・バレンシアは以下のように述べている。
管轄権の拡張は…不公平な発展の継続、不安定さが入混じった競争、ナショナリズムと軍国主義、超大国の干渉、環境の悪化、そして先進国の技術と市場への依存の増大、というパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない(7)。
拡大された海域管轄権の問題は東アジアにおいて特に深刻である。この論文では、これらの問題がこの地域で特に深刻である理由、それらが海洋資源開発へどのような影響を与えているか、そして地域の安全保障に及ぼす意義について述べることとする。沖合い資源については、特に炭化水素資源は豊かであると一般的に認識されており、また(地域内の多くの魚種の場合)すでに過剰に開発され利益を生んでいるという事実があり、海洋資源問題において、関連する資源の価値の重要性とはほとんど不釣合いなまでの感情的で大袈裟なナショナリズムを含んだ激しい競争を招くようになった。この状況は、1992年リオ・デ・ジャネイロ国連環境開発会議(UNCED)で合意されたアジェンダ21の17章(8)と同様に、海洋法条約が求めている天然資源開発における海域の統合化された管理と天然資源開発の地域協力のプロセスに対して悪い影響をあたえている。後者の合意は、海洋法条約(LOSC)によって制定された海洋環境管理レジームに基づいたものである。