である。なぜなら、公海上で航路封鎖でもしようものなら、船に翻っている国旗の国家に対して以上のインパクトをもつからだ。そこでの課題は、誰が影響を受け、誰に助けを求めたらよいかを、いかに厳密に決定するかである(注5)。
3.2 スエズ運河
スエズ運河の閉鎖も似たような結果となろう。すなわち、地域限定的な影響であり、世界規模でみた場合は、無視しうる程度の結果にしかならないということだ。海軍情報部のレポート「スエズ運河とSUMED石化コンビナート:閉鎖の場合の世界貿易と海運」(注6)によれば、もし、スエズ運河が丸1年間封鎖され、全ての船舶が希望峰廻りでたとしても、余分にかかる航海コストは、1994年の海上輸送量から見るとおおよそ170億ドルである。この金額が、東南アジアの海峡封鎖において見積られた損失コストの約二倍となる理由は、アフリカ回りの回り道で航海距離が延びることによる。
しかし、大局的に見れば、170億ドルの余分なコストは、1994年度で8.5兆ドルにのぼる世界の商取引の量とその波動をからするとしゃっくり程度のものでしかない(注7)。加えて、船賃の追加コストは多めに見積られている。なぜなら、この見積りは、SLOCを通過するのと同じタイプの船が、閉鎖の場合に他の航路を通過することを前提としているからである。これは、現実には起こらないことだ。例えば、スエズ運河を通過する石油は、通常スエズ・マックス・タンカーとよばれ、スエズの浅い水深に適応したものとなっている。この種のタンカーの最大積載量は15万トンから16万トンである。もしスエズ運河が閉鎖されたなら、石油は、喜望岬回りで、VLCCと呼ばれる20万トンから28万トンの積載能力のある船で運ばれるだろう。結果として、VLCCの起用により、航海数は減り、海上運送コストは減るであろう。
これは、海軍情報部の研究によって実証されたことである。事実、北米、中南米、北ヨーロッパ向けの湾岸原石油の全ては、VLCCに積まれ喜望岬回りで運ばれている。まとまった量の石油をスエズ運河経由で輸入しているのは、地中海に面したヨーロッパ各国だけである。とりわけ石油の輸入に関してスエズ運河に依存しているのは、ギリシャとトルコであり、この2国は、1994年の石油の輸入需要量の、それぞれ42.3%、72.6%をスエズ運河経由で受け取っている。その理由は、明らかに、この2国が地理的に運河に近いからである。
このデータは1994年のものであるが、2国のスエズ運河への依存度の数字は以降は減ってきている。湾岸のスエズから地中海側シディ・ケリルの出口まで、スエズ運河の脇を通るSUMEDパイプラインの利用が増え、トルコからもう一つの地中海側出口であるセイハン港までをつなぐイラク・パイプラインが再開されたからである。加えて、カスピ海油田からの輸出が計画されており、これによるサプライソースの多様化により、スエズ運河への依存度は低くなることが見込まれる。