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4:論文の価値(1):第三次海洋法会議の交渉過程を詳しく論述した点

 

次に、この論文の価値を評価する。この論文の魅力は、第三次海洋法会議における条約策定交渉における主要な論点と議論を簡潔に要約した点にある。

国連海洋法体制下の海洋レジームの問題点を現状と将来にわたり抽出していることも評価してよいと思う。

国連海洋法条約の主要な成果には、12マイルの領海幅の設定、EEZの策定による領海、EEZ、及びその外側の公海から成る三次元的な海洋制度の設定、EEZ又は大陸棚の外側の全ての海底を深海底とする定義化、海洋環境の保護と海上交通の安全確保のためのバランス維持のための基本的枠組みの提示、条約締約国間の紛争解決のための包括的な紛争解決手続きなどがあるが、それぞれについて、簡潔かつ明快な解説がなされている。

そもそも、国際法はあらゆる妥協の産物である。したがって、その研究においては、条約上の規定や解釈の学説を勉強した上で、「なぜそのような規定になったのか」という疑問を常に持ちながら研究する態度が肝腎であるといわれる。条約等の起草過程の調査は重要な分野であるが、この論文は、第三次海洋法会議の交渉過程を詳しく論述している点で、有用である。

 

5:論文の価値(2):安全保障上重要なEEZ中間線等の境界線策定を巡る論述

 

また、安全保障上の観点からみても、この論文の漁業資源及び深海底資源探索に関する論述は見逃せない。

実は、安全保障の専門家ならば誰でも告白することであろうが、安全保障の観点から国連海洋法を勉強すると、どうしても国連海洋法の前半部分にのみ研究の関心が向いてしまうのである。前半部分には、領海や国際海峡等における外国船舶の通行権、沿岸国の継続追跡権等、沿岸国と船舶の旗国のあいだの管轄権の競合に関する条文がひしめいている。一方、国連海洋法の後半部分には、漁業や深海底資源探索を念頭に置いたEEZ中間線等の境界線策定問題を決着させるための論拠となる条文があるが、安全保障に関心のある研究者は、これは、漁業や海底油田などに関心のある人達が利用すべき条文であるなどと考えて、関心を失いがちなのである。

しかしながら、日本と諸外国との紛争の原因を考えると、漁業を巡る問題や、EEZ中間線等の境界線策定を巡る問題は、実は安全保障上からも極めて重要なのである。

このことは、韓国やロシアと漁業問題を見ただけでも理解されるし、東シナ海での一連の紛争をみても明らかである。例えば尖閣諸島を巡る紛争では、海上保安庁巡視船のプレゼンスが外国による日本への更なる挑戦を阻止しているようであるが、将来のことはわからないとすれば、もし、武力の行使を伴う事態へと発展した場合には、外国側は、EEZ等の伸張に伴う深海底資源への排他的なアクセスの占有を主張してくるかもしれない。そうなった時には、自衛隊にとっても国連海洋法の後半部分の条文は無縁ではないのだ。

海洋汚染防止についても、自衛隊は国連海洋法の後半部分の条文に注目しなければならないだろう。

 

 

 

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