そして、国連海洋法条約が創り出した新しい海洋法レジームを解説しているが、それらは、排他的経済水域(以下、EEZとする)を含む沿岸海域、大陸棚、及び公海の海域という分類になる。
この論文で、Freidheimはオーシャン・ガバナンス3の観点を取っており、その観点から、国連海洋法条約の成果と貢献を論じている。このような観点には批判もあるが、批判は後で述べるとして、Freidheimの議論をそのまま紹介すれば、次の通りである。
Freidheimは、国連海洋法条約下の「管理された海洋」の時代には、グロチウスの伝統的な海洋の自由理論はもはやそぐわないと言う。しかし、それにとって替るべき国連海洋法条約も、オーシャン・ガバナンスの視点からは、必ずしも完全な成果を挙げているわけではないというのである。特に国連海洋法条約の公海に関する規定には、グロチウス理論による伝統的な海洋管理の考え方の尻尾が残っているという。
彼は、オーシャン・ガバナンスとの係りを詳細に論じているが、とくに国連海洋法条約第11部の深海底及びその資源利用、並びに漁業の管制に係る論述は緻密である。
Freidheimは、条約の深海底及びその資源利用についての規定が実効性を有するのは、21世紀のことであろうとの見通しを述べている。また漁業の管制については、国連海洋法条約に依拠した国際機構による管理へ進むと見ており、現実にもその方向へ向かっているとしている。
実は、国連海洋法条約には、まだ未発効の「ストラドリング魚種及び高度回遊性魚種保存条約」がある。Freidheimは、この補足的な条約を引用し、過去においては、操業や漁獲の自由が原則として認められてきた公海での漁業に、将来においては制約が加えられるとこになるだろうと論じている。
最後に、Freidheimは、国連海洋法下の海洋レジームはいまだに不備が多いが、このレジームこそが将来の海洋管理の基本的枠組みになるレジームであり、オーシャン・ガバナンスこそが主流といってよい思想であると結論付けている。そして、これらに対する理解と国連海洋法条約の履行を強く求めている。
以上がFreidheimの論述の概要である。次にこの論文を批判する。
3:論文を批判する
この論文で、Freidheimが、いまだに多くの問題があるものの国連海洋法条約を肯定的に評価していることは明らかである。オーシャン・ガバナンスの立場から、彼は、海洋とその資源を「人類の共同の遺産」として位置付け、海洋の包括的な管理を主張している。
3 オーシャン・ガバナンスという文言についての確立された定義は存在しないが、これを支持する論調によるとその意味するところは、先のパルドー演説の海洋を「人類の共同の遺産」とする理念に基づき、従来の沿岸国、海洋の利用国、或いは国際機構という既存の主体、或いは枠組みを越えて、海洋を包括的に統治(governance)することにより、人類の海洋を人類によって管理することであるとされている。なお、オーシャン・ガバナンスについては、エリザベス・ボルゲーゼ、「海洋の新しい時代-国連海洋法条約の発効にあたって」『横浜市立大学論叢』第45巻(1994年3月)、135-136貢等を参照せよ。