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因みに全米を隈無く覆っているインターステート・ハイウエーは約8万8000キロメートル、ヨーロッパ西側諸国の自動車道路合計が約3万5000キロメートルであるので、ローマの道路網が現代の自動車道路網に比して少しも遜色なく、如何に隈無く整備されていたかがうかがえる。ローマはこの道路網によって軍隊の迅速な展開を可能にし、領内をコントロールすると共に、人・物・情報の交流を盛んにして経済活動を活性化し、繁栄を勝ち得たのである。

 

更にもう一つの例として、蒙古帝国は騎馬と馬車を利用することにより草原を交通網として最大限活用すると共に、ジャムチ(駅伝制)を採用して独自の交通網を整備し、版図を拡大していった。

 

ローマ時代における海上交通は、地中海沿岸やドーバー海峡の両岸を結ぶ交通網として重要な役割を果たしたが、主として近海を結ぶものであり、広大なローマの版図を覆う交通網の一部を支える存在にすぎなかった。

 

ところが時代を経て、人類は造船技術と航海術を身に付けて外洋を交通網として活用する様になり、遠く海を隔てた地域まで交流を拡大することが出来る様になった。

特に動力船の出現により、海洋は特段の手を加える事無く縦横無尽の大容量交通網(シーレーン)として活用出る様になり、ローマが莫大なマンナワーと資本を投入してその版図内に築いた道路網を質量共に遥かに超える、地球規模の大交通網を人類は手に入れることになったのである。

 

近代文明が地球規模に拡大発展し得たのは正にこのシーレーンの活用によるものであり、地球表面積の70.8%が海であったということが人類に限りない恵みを与え、今日の地球規模での繁栄を可能にした根源であると言っても過言ではない。

もしこの海が無かったなら、地球全体にシーレーンに匹敵する様な縦横無尽かつ大容量の交通網を張り巡らすことは、莫大な資本とマンナワーを投入しても少なくとも現時点までの人類の能力では不可能に近く、現在の様な地球規模での相互発展は期待できなかったであろう。

 

この海の持つ図り知れない可能性と豊富な資源を活用する能力を持っことが、グローバルな発展と繁栄、延いては歴史をも動かす鍵を握ることにつながることに、百有余年前に着目したのがアルフレッド・マハンである。

 

 

 

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