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第21章 シーレーン原論

 

議論の原点となる「山本論文」の新バージョン

山本誠(元海上自衛艦隊司令官)

 

1 はじめに

 

冷戦終結により東西対立の基調が消滅し、顕在的な脅威が低下したためシーレーンの安全確保に対する一般の認識は薄れる傾向にあり、時折中台問題に関連して台湾海峡におけるシーレーンの問題がマスコミに取り上げられることはあるものの、シーレーンそのものに対する一般市民の関心は、低下する方向にあることは否めない現象である。

しかし冷戦後においても、シーレーンを安全且安定的に確保することが各国の存立を支える死活的な要素であることに些かも変わりはなく、地域の安全と安定を確保する為の軍事力の迅速な展開を容易にし、相互に発展する各国の経済活動を支える動脈網として、シーレーンの重要性が益々増大しつつあることは紛れも無い事実である。

この時期に当たって、21世紀におけるシーレーンの意義を再確認し、その現状と問題点を提示することにより、その重要性と脆弱性について広く注意を喚起することは意義有ることであると考える。

 

2 21世紀におけるシーレーンの意義

 

古来、文明が発展し繁栄する過程において、域内の交通網が如何に重要な役割を果たしたかということは改めて論ずるまでもない。

交通網に期待されたのは、大きく分けて次の3つを支える機能である。

1] 「人・物の交流」

2] 「軍事力の迅速な展開」

3] 「情報通信連絡」

全ての道はローマに通ずると言われるが、ローマはその版図を拡大するにあたり、道路網の建設に大きな重点を置いた。

ローマ1000年の歴史の中で、その領土が最も大きくなったのはトラヤヌス帝(在位98〜117)の時代であるが、その領土面積は約720万平方キロ(アメリカの総面積は936万平方キロ)であり、これを覆った道路網総延長距離は約29万キロメートルに達したと云われている。ディオクレティアヌス帝(在位284〜305)の時代の記録によると、主要幹線は372本約8万6000キロメートルに及んだという。

 

 

 

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