●軍艦の法令遵守の義務
軍艦が外国の領海を通航する場合は、無害通航に係わる沿岸国の法令及び国際法を遵守しなければならない。沿岸国は法令に従わない軍艦に対しては、領海からの退去を要求することができる。また、軍艦がもたらした損害は、旗国が責任を負う。これらの規則は、慣習国際法であると同時に、国連海洋法条約にも明記されている。(第30条・第31条)
(4) 外国港における軍艦
軍艦の外国港への入港に関する規則及び外国港内における特権・義務に関する規則は、条約化されていない慣習国際法である
●外国港への入港
軍艦が外国を訪問する場合には、旗国政府が事前に外交経路を通じて、訪問国政府に許可を求めることが必要である。友好的関係にある国家間では、入港を許可するのが慣行であるが、訪問国が入港許可に際し入港隻数や在泊日数等の条件を付すこともできるし、場合によっては入港を拒否することも出来る。
但し、不可抗力及び遭難の場合には、事前の許可がなくとも外国内水、不開港に入れる。この場合は速やかに事後承認を得る必要がある。
同盟国間では、外交経路による事前の許可申請を省略して通告のみで訪問を認めるケースがある。例えばわが国の場合は、日米安全保障条約に基づく地位協定により、公の目的で運航される米国艦船には日本の当局への事前通航のみで入港が認められている。
●外国港における特権
領海にある軍艦の特権と同様、軍艦が外国港に入港しているとき、受入国の主権からの免除を享有する。軍艦は、受入国の警察権、裁判権、臨検捜索権等、一切の管轄権に服さない。軍艦が受入国法令によって拿捕又は抑留に処せられることはなく、軍艦内の乗組員が逮捕されることもない。
艦内で犯罪が行われた場合には、軍艦所属国の法令によって処置がなされる。受入国の官憲が艦内に入り、容疑者を逮捕し又は犯罪箇所の検分をすることはできない。
受入国の犯罪者が艦内に逃げ込んだ場合にも、受入国の官憲が艦内に追跡して逮捕連行することは出来ない。受入国の警察、税関その他の官憲は、艦長の許可なくして軍艦に立ち入ることは出来ない。
軍艦と受入国船舶との衝突などによって私法上の請求が生じた場合には、受入国は外交経路を通じて請求するか、軍艦の旗国の裁判所に訴える。こうした場合、軍艦の旗国が被害者に相当額を補償する。