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軍艦がこのような免除の特権を有するのは、軍艦が海洋において他の如何なるものよりも旗国の主権と独立を完全な形で表徴するものであり、主権平等の原則から、如何なる国家も対等な地位にある他国の軍艦に管轄権を行使できないからである。

●公海自由の享受

全ての国の船舶は、公海の自由を行使する他の国の利益及び深海底における活動に関する海洋法条約に基づく権利に「妥当な考慮」を払うという条件で、公海の自由を享受する(第87条)。先述したように、軍艦も公海航行の自由のほか、条約上明記はされていないが、海洋法条約の審議の過程で論議があり、例えば海軍の演習、兵器実験及び情報収集等の自由は他国の権利を損なわないよう配慮をすることを条件に適法とされている。

●遭難に対する援助

海上で遭難が発生した場合、援助を提供しなければならない。これは慣習国際法上の義務であり、海の伝統でもある。国連海洋法条約でも、この遭難に対する援助の義務を定めている(第98条)。

 

(3) 外国領海内の軍艦

 

●沿岸国管轄権からの免除

これも慣習法として確立された原則であるが、海洋法条約においても、軍艦は外国領海において沿岸国の管轄権から一定の免除を享有することを定めている(第32条)。例えば、沿岸国の官憲は艦長の同意なくして軍艦内に立ち入ることはできないし、乗組員は沿岸国の裁判権に服さない。軍艦は航海、衛生、警察などに関する沿岸国の法令に従わなければならないが、それに違反した場合でも、沿岸国は関係者を処罰し得ない。このような特権は、主権免除又は治外法権と不可侵権とに分けて説明されることもあるが、その区別は必ずしも明確ではなく、国連海洋法条約でもこうした用語を使用していない。

●無害通航権

先に述べたように、軍艦も無害通航権を有することについては疑問の余地はないが、事前の許可申請若しくは事前通告を要求している例が少なくない。また、それが無害通航権を侵害するものかどうか規定もなく、確定的な見解もない。因みに、中国は、政府に許可を求めることを要求し、韓国は、事前通告を要求している。また米国とロシアは、事前通告も許可も不要としている。

 

 

 

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