こうしたことから海洋法条約の審議に当たって、海洋国特に海軍国は、潜水艦を含む海軍艦艇の行動の自由を重視してきた。その結果、国際海峡の通過通航制度等にみられるように、艦艇の航行の自由、軍用機の飛行の自由は最小限確保されているのである。
先述した通り、公海・接続水域及び排他的経済水域における海軍の諸活動についても、条約上明記されているわけではないが、審議の過程で適法とされており、海軍の演習も(他の活動に配慮しなければならないが)実施できる。また、国連海洋法条約第88条で「公海は平和目的のために留保される」と規定しているが、海軍の行動それ自体を禁止しているものではないと解されている。
しかし、全般的には前述の通り、航行の自由は制限され易い状況になってきており、海洋国の海軍の活動は窮屈になる傾向にある。更には、沿岸国の利益・環境保全・資源保護と言った立場から、条約より踏み込んだ制約を加えようとする動きもあり、今後とも、海軍の活動の自由と沿岸国の権利との綱引きには、十分注目しておく必要があるだろう。なお、武力紛争中は、別の戦時国際法即ち「海戦法規」の適用を受けるので、中立国の主権或いは主権的権利(管轄権)を侵さない範囲での作戦ならば、全面的に実施が可能である。
3. 軍艦の地位
(1) 軍艦の定義
海洋法条約では、「軍艦とは、一国の軍隊に属する船舶であって、当該国の国籍を有するそのような船舶であることを示す外部標識を掲げ、当該国の政府によって正式に任命されてその氏名が軍務に従事する者の適当な名簿又はこれに相当するものに記載されている士官の指揮の下にあり、かつ正規の軍隊の規律に服する乗組員が配置されているものをいう」と定めている(第29条)。
これは1958年の公海条約の規定を踏襲したものであるが、その公海条約の規定は、慣習国際法上の軍艦の定義を明文化したものであり、国際法上では、軍艦の要件は外形や兵装ではないことを示している。
(2) 公海における軍艦
●他国管轄権からの免除
国連海洋法条約では、「公海における軍艦は、旗国以外の何れの国の管轄権からも完全に免除される」(第95条)と定めているが、これも慣習法として確立された原則を明文化したものである。この軍艦の免除の特権は、他国の排他的経済水域においても認められる(第58条)。