例えば、中国・韓国・台湾は、自然延長による大陸棚の管轄権を主張しているのに対し、わが国は排他的経済水域と合わせて、中間線による境界線画定を主張しているため、交渉は難航している。その上、領土問題がからみ一層複雑な問題となっているのは、既に述べた通りである。
(10) 深海底
海洋科学技術の進歩に伴い、深海底にはマンガン鉱物等稀少金属などの鉱物資源が存在することが次第にわかってきた。そこで、これら人類にとって貴重な資源を特定の国や企業の占有物とせず、人類の共同の遣産として開発を進めるべきだとして、1967年8月17日国連総会において、マルタ代表パルド大使が提案したことがきっかけとなって、発展途上国を中心に何らかの法規制をしようとする機運が急速に高まり、1970年12月17日の国連総会において「国家管轄の限界を越える海底及びその地下を規律する原則の宣言」が採択されるに至った。
第三次国連海洋法会議ではこれらを受けて、深海底の条約化作業に入ったが、先進国と発展途上国との間の対立が厳しく、長い交渉を余儀なくされ、なんとか深海底とその資源に適用される法制度を定めることが出来たのである。しかしながら、この制度の大綱についてはコンセンサスが得られたものの、資源開発の具体的制度については先進国の合意が得られないままの採択であったため、アメリカ・イギリス・ドイツなどは署名すら拒否し、その他の先進諸国も批准を遅らせるという結果になった。
即ち深海底の資源開発には、「国際海底機構」なるものを設立して、これを中心に活動させることにした訳だが、各国や企業に資金提供や技術協力を義務づけたため、先進国側が「国や企業の負担が増え、商業活動を阻害する」と強く反発したのである。
このままだと折角、採択された国連海洋法条約に先進諸国が加盟しない、意味のない条約になってしまう恐れが出てきたため、デクエヤル前国連事務総長らの提唱で、南北の交渉が1990年から4年間に亘って続けられた。その結果、南北双方の妥協が成立し、その内容を盛り込んだ実施協定が94年7月の国連総会でアメリカ・イギリス・ドイツ・日本など先進諸国も含めて、賛成121、反対0、棄権7で採択され、国連海洋法条約への加盟が一気に前進することになったのである。
4000メートルから6000メートルの深海に眠るマンガン・ニッケル・コバルトなどの、稀少金属を含む鉱物資源の経済的探査開発については、前述したように、国連総会で最終的な合意が得られたので、国際海底機構(ジャマイカに設置)を中心に国際的な開発が今後進められることになる。