しかも世界の漁獲量全体の95%が、この200海里水域内で捕れると言われており、漁場の奪い合いは激化している。従って、水域が接する場所では、境界線の画定が関係国にとって重大な関心事となっている。
排他的経済水域の境界画定については、国連海洋法条約では、「向かい合っているか、又は隣接している海岸を有する国の間における、排他的経済水域の境界画定は、衡平な解決を達成するために、・・・国際法に基づいて合意により行う」(第74条1項)と規定されている。先述したように、この何の変哲もない条文が、実は大変厄介な問題を含んでいる。
その第一点は、この「衡平な解決」の規定にある。1958年の大陸棚条約では、境界の画定で合意が得られない場合は、等距離原則に基づく中間線の採用を規定していたが、それが却って衡平を欠くことになった事例(北海大陸棚事件1969年)が生じたことから、今回の国連海洋法条約では、排他的経済水域と大陸棚の境界画定には、「等距離原則(中間線原則)」は採用されなかった。
従って、これらの境界線を画定する際は、これまでの国家実行と、関係国間の新たな合意により、対応しなければならない。例えば、わが国は、中国・韓国との排他的経済水域等の境界画定交渉に当たって、中間線を主張している。これは一つの解決法ではあるが、相手が他の方策を主張してくる可能性もある。
第二点は、大陸棚の境界画定の条文(第83条)と、排他的経済水域の境界画定の条文(第74条)とが、全く同じ条文になっていることである。ところが、海底地下と上部水域では、それぞれにおける資源の性質及びその存在の仕方を異にしており、両者の境界線に不一致が生ずる恐れが少なくない。そのような場合、国家の管轄権問題を著しく複雑にすることは、火を見るよりも明らかである。例えば、東シナ海における、日本と中国の大陸棚の範囲に対する考え方は全く違っている。
何れにしても、排他的経済水域は基線から最大200海里まで、大陸棚ではそれ以上350海里まで認められたので、これまで無かった新たな境界線の画定交渉が生起してきた。そこに未解決の領土問題が存在していれば、この問題は境界画定に直接関連する、いわば領域画定の延長線上にあるわけで、竹島や尖閣諸島の領土問題が大きくなっているのは、このためである。漁業資源だけではなく、わが国の主権を左右する問題を含んでいることを忘れてはならない。
(9) 大陸棚
大陸棚が国際法上の問題として表舞台に登場したのは、1945年9月の有名な「大陸棚に関するトルーマン宣言」以降である。
この宣言は、「公海の下にある合衆国の海岸に接続する大陸棚の地下及び海岸の天然資源を合衆国に属し、その管轄権と管理に服するものとみなす」というもので、沿岸国による公海海底に対する権利の主張であり、そのことが良かれ悪しかれ、沿岸国による広大な海洋支配へと向かう第二次大戦後の海洋国際法の新しい展開に、重要なきっかけを与えることになった。