もし、国家が外国船への接近を拒否すれば、国際海運通商は成り立たない。同様に、すべての国が自国の港に入港するあらゆる船舶に自国の基準を押し付けることも非現実的である。
もし、上記の二つの前提が受け入れられるなら、そこから得られる論理的結論は二つしかない。
第一の結論は、国家は自国の船舶をかくあるべしと信ずる方法で取り扱うが、外国船については、その限りではないということである。
実際、これは、ほとんどの国家でとられてきた態度である。こうした方法は競争相手が船や乗員の幸福を軽視する限り友好に機能するが、他国の利害には正反対の影響を及ぼすものである。
しかしながら、社会的道義心がコストを押し上げると、他のより安価な方法が脅威となる。この脅威は経済的なものだけではない。
十分な整備を受けていない石油タンカー、あるいは、十分な教育訓練を受けていない船員は、環境破壊の要因となり得る潜在的脅威である。
もし、この結論を、不平を唱えることなく受け入れる準備ができているのでないならば、他者を無視するこの第一の結論は選択肢ではない。
他者を無視する第一の結論が選択肢ではないとすれば、第二の選択肢は、共通の規範を制定することである。
最近、国際的に合意された規範を制定・発展させる努力が続けられてきた。141カ国がSOLASという略称で知られている1974年の海上における人名の安全のための国際条約の当事国であり、また、128カ国が最新の(国連海洋法)条約の当事国である。
これらの国々が、最低限の規範にコミットすることと引き換えに得るものは、相互理解という安全保障であり、また多少、制限されているとはいえ、海洋環境にみられるように、自国の産業などの国益を保護する代理人として活動する能力である。
旗国の義務
国際的な規範を確保する義務は旗国の政府に課せられている。1974年の海上における人名の安全のための国際条約第1条は、以下のとおり明確に規定している。
締約政府は、この条約及びこの条約の不可分の一部をなす附属書を実施することを約束する。(中略)
締約政府は、人命の安全の見地から船舶がその予定された用途に適合することを確保するため、この条約の十分かつ完全な実施に必要な法令の制定その他の措置をとることを約束する。