第19章 海洋における権利と義務
権利だけでなく、義務が問われる時代が到来した
ポール・マックグラス(豪海洋安全監督庁長官)(うみのバイブル第1巻掲載)
最近まで、海洋法は、ほとんど権利についてだけ議論をしてきた。
外国船に対する権利行使や法執行権がしばしば制限されているとはいえ、沿岸国は領海内で主権を行使できる。また、公海における航行の自由の原則も、船舶所有権と漁業権を有する国々にとって、重要な問題であった。
沿岸国が比較的狭い管轄権(長い間、3カイリであった)しか有しておらず、海の経済的利用方法が漁業と航海だけに限られていた時代には、上記の二つの利害は共存することができた。
国際海運は旗国だけではなく、沿岸国にとっても重要であった。
しかし、技術が進歩し、遠洋漁業が可能となり、領海外や他国の領海内での操業すら可能となるようになった。各国は、自国のために海洋資源の保護に乗り出した。
さらに、海洋環境への汚染を見せつけたタンカー船の事故によって、それまで無制限だった航海における航行の自由の原則に対する疑問の声が上がってきた。
この結果、航海における義務のあり方が問われるようになってきたのである。
1958年のジュネーブ海洋法条約
1958年のジュネーブ海洋法条約は、海洋法条約を制定する事実上最初の試みであった。この条約は義務についての条文も含んでいる。
例えば、1958年の公海に関する条約は、権利に対する歴史的な条文を規定している。すなわち、
「公海は、すべての国民に開放されているので、いかなる国も、公海のいずれかの部分をその主権の下におくことを有効に主張できない。」、また、
「沿岸国であるかどうかを問わず、いずれの国も、自国の旗を掲げる船舶を公海において航行させる権利を有する。」
1958年の公海に関する条約は、さらに以下の条文を規定している。
いずれの国も、自国の旗を掲げる船舶について、特に次のことに関し、海上における安全を確保するために必要な措置を執るものとする。
(a) 信号の使用、通信の維持及び衝突の防止
(b) 船舶における乗組員の配乗及びその労働条件。この場合において、労働に関して適用される国際文書を考慮に入れるものとする。
(c) 船舶の構造、設備及び堪航性