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国家管轄水域を横断しての実施とはいえ、管轄水域には沿岸国の主権的な権利が存在することを勘案しても、この相互乗込の制度は必要となるものかもしれない。派出可能な艦船や航空機を保有しない国の管轄水域内を他の国の艦船等が実施する場合、当該沿岸国は自国の人員を乗り込ませることを要求するだろう。

このような、信頼性と透明性を確保するための措置についての検討が必要となる。

 

(3) 「早期警戒・事実調査」活動の意義と展望

 

海洋を舞台とした、“成長-資源-環境”のトリレンマの克服は、人口の増加や資源の不足が危倶される21世紀に臨んで、持続的な発展を目指す人類社会の最大の課題となっていくであろう。

海洋資源・環境の保護のための「早期警戒・事実調査」活動を実現するためには、問題意識の国際的な啓蒙並びに安全保障としてのテーマ化から始めなければならず、検討及び調整のために多大な労力と時間を要するであろう。始めから地域全体を包含するような完全な制度を期待することは無理である。例えば、既成の漁業協定のある二国間から始めるといった考えも必要である。日本と韓国の間で、あるいは南太平洋小島国家とオーストラリア、ニュージーランドの間等で始め、次第にその輪を広げ一つにする方法もあるだろう。

制度の制定に長期間を要するようであれば、取り敢えず了解覚書きの交換(MOU)によって開始し、試行を重ねながら次第に形を整えるといった、柔軟で息の長い対応も必要であろう。

海洋国家にして食糧の漁業に依存する割合の高いわが国としては、海洋資源・環境の保護のための多国間の活動について、積極的に提案し実現に向かってリーダーシップを発揮する姿勢も必要ではないだろうか。

海洋資源・環境の保護のための「早期警戒・事実調査」活動は、武力の行使を伴わず、集団的自衛権の行使といった次元の行動でもない。このような活動の働き掛けは、わが国として取り得る有効な“予防外交”であり、かつ、地域における信頼醸成の積極的促進でもある。信頼醸成を真に促進するには、共通の利益のための、具体的な共同活動を検討する場を持っことが効果的である。その意味から、このような活動は、実現は勿論のこと、提案し、協議する過程そのものにも意義があるといえる。

実現すれば、多国間安全保障の構築には多くの困難があるとされるアジア太平洋地域に、大きな意識改革をもたらすものとなるだろう。

 

 

 

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