「21世紀への課題“アジェンダ21”」は、1992年にリオデジャネイロで開催された地球環境サミットにおいて採択された。アジェンダ21は、21世紀に向かって、あるいは21世紀において、環境を保護しつつ限りある資源を持続的に利用するために必要な措置が盛り込まれており、その第17章が海洋の部である。第17章には、沿岸地域の総合管理、海洋環境保護、公海における漁業、排他的経済水域内における漁業、小島嶼国問題、そして国際協力の在り方等が示されている。環境保護に関しては、国連海洋法条約に従って、海洋環境の悪化を防止し、環境破壊を取り締まるべきことを確認し、さらには予防的・予見的アプローチを適用すべきことが述べられている。資源に関しては、海洋生物資源の持続可能な利用と保存のための、乱獲、不法操業、生態系破壊の防止を訴えている。そして、国際協力として、地域的協力と制度の構築の必要性を強調している。
グローバル・ガバナンスの海洋への適用、つまり、オーシャン・ガバナンスによる海洋資源・環境の保護ともいえる。
「開発への課題“アジェンダ・フォー・ディベロップメント”」は、この資源・環境への課題を踏まえての、トリレンマのもう一点、開発に関する答申である。
海洋資源・環境の保護に関し、国連海洋法条約を法的枠組みとすると、アジェンダ21は政策的枠組みを示すものである。後は、それを実行に移すための行動計画(アクションプラン)が必要である。1995年に設立された海洋問題世界委員会(IWCO)は、国連海洋法条約の厳格な実施を国際的レベルで確保していくための方策を検討することを目的としており、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見から500年目に当たる1998年の国連海洋年に、提言を纏め国連総会に提出することとしている。IWCOの活動には、「国連海洋法条約とアジェンダ21の実施の促進」、「アジェンダ・フォー・ピースの実施のための海洋管理の可能性の検討」が含まれている。このことはつまり、海洋資源・環境保護を多面的にとらえ、安全保障の面からは平和活動の適用(国連平和維持活動等、軍事力の平和的貢献)についても検討すべきとの認識を示しているのである。
3 オーシャン・ガバナンスと海上防衛力の平和利用
(1) 海洋資源・環境保護のための海上防衛力の国際貢献
前述したように、国連海洋法条約は、持続可能な利用のための海洋資源の適切な管理と海洋環境の保護を規定し、そのための国際協力の原則を謳っている。もちろん排他的経済水域や大陸棚等においては、沿岸国が資源の利用に関する排他的権利と環境に関する管轄権を有しているのであるが、沿岸国がそれぞれ、管轄する海域の海洋資源・環境を個別的に管理しかつ保護していくことには限界がある。回遊型の海洋生物資源の管理、海流にのって広範囲に広がる汚染等、海洋資源・環境の保護は国家管轄水域通りに線引きできるものではない。