2:会議への戦略的思考の提供
この会議自体は学者や法律の専門家の集まりなのです。たしかに海洋法の策定にあたっては非常な貢献があったわけで、それはそれなりに意味があるのですが、残念ながら戦略的思考という側面からの検討はほとんどなされることがなかったとのことです。今までの会議は、逐条的な解釈論やそのディスカッションに終わっていた。したがって、規定が明解でないと解決方法が見いだせないままで終わっていた。
今回われわれが日本から参加した経緯ですが、国際経済政策調査会(椎名素夫理事長)が主催する「公海の自由航行プロジェクト」(川村純彦委員長)が、岡崎研究所(岡崎久彦所長)と協力して平成9年から日本財団の助成を受けて海洋問題のパネルを設け研究と成果の啓蒙をしてきたわけですが、平成10年末(1998年)にアジア各国の主要な海洋研究所のトップを東京に招いて意見交換をいたしました。韓馬泰の3カ国から有識者を招いたのですが、このなかのおひとりがSEAPOLのフランシス・ライ(Frances Lai)博士でした。ちなみに、韓国からはSeohang Lee博士、マレーシアからはMIMA(Maritime Institute of Malaysia)のハムザ所長を招きました。
また、同事業の海外調査として98年2月にハワイに調査団を派遣しPacific Forum CSISやAsia-Pacific Centerなどで意見交換をいたしましたが、その際、アメリカ太平洋艦隊司令部で受けた指令官胆入りのブリーフィングが刺激になりました。それによると、インドネシアが群島水域内で航行する米海軍の艦隊の行動に制限等を加えようとしている。米海軍は、このインドネシアの動向に非常に強い懸念を表明しておりました。
さて、平成11年(1999年)になり、ライ博士からこの会議がマニラで開催されること、われわれのプロジェクトから専門家を派遣してもらいたいとの依頼を受けました。そこで、当方からは、
1) この地域の海洋の最大の利用者であるアメリカ海軍の出席無しにはこの会議の意義がありませんよ、ということを、強くこの会議の主催者であるSEAPOLに助言しました。
2) さらに、アメリカ太平洋艦隊司令部へも参加を強く助言しました。
その結果、今回の会議には太平洋艦隊の指示を受けた第七艦隊が法律の専門家を参加させ、米海軍としての意見を発表し、討論に加わることになりました。いままで主たるユーザーであるアメリカ海軍抜きで行なわれていた討議に、きわめて実際的なインパクトを与えることができました。これは国際経済政策調査会・岡崎研究所の一つの大きな功績だと思います。