さて、国際海洋法条約は1994年に発効しましたが、まだまだ完成途上にある国際法です。とくに、群島水域(Archipelagic waters)あるいは国際海峡(International straits)における規定が非常に曖昧で利用国と沿岸国とのあいだで解釈が一致せず問題を起こしてまいりました。
利用国というのはアメリカ、日本などの先進海洋国家のことですが、航行の自由が地域全体の利益をもたらすのだと主張しておりますが、沿岸国は必ずしもその主張に賛成ではありません。ナショナリズムが台頭したり、自国の権益を少しでも広げたいという気持ちがあり、利用国と沿岸国の主張には対立が生じることがあるのです。
国際海洋法条約成立の事情は省略しますが、利用国と沿岸国の主張の妥協の産物ですから、条文には曖昧な点が多い。5また条文解釈も時代とともに変遷しますので、SEAPOLの今回の会議は、こうした主張の差を調整するために開かれたのもです。今回の会議がMaritime Transit Issues Revisitedとあり、とくに「Revisited」とあるのは、以前からある根深い問題を今回改めて話し合おうという趣旨です。
この会議には、国際法や海洋法の国際的権威が多数参加し、まだまだ隠然たる影響力が残っているなと実感されました。たとえば、会議の冒頭にフィリピンのシアソン外相がキーノート・スピーチを行い、さらにスピーチが終わったあとも、会場に長時間残って主要メンバーと歓談しておりましたことからもそのことは分りました。
ただ、その人たちも年齢が高くなり、60歳、65歳となりましたので、早く次の世代を育てなければならないという時期にもさしかかっているわけです。
例えばカナダのジョンストン博士、インドネシアのジャラール博士、タイのフィファット大使、日本の大内教授など、異口同音に今後の後継者問題について心配しておられました。ちなみにジョンストン博士と大内教授はYale大学のマクドーガル教授の門下生という関係にあるとのことでした。
大内先生は、日本の主張をいかに入れていくかについて、新しい世代を早急に育てなければならないと今後のことを非常に心配されておりました。
また、こういう会議で培われた人脈を通じて、率直な意見交換、提案の申し入れ等を行ない、国連海洋法の将来の改訂等がわが国に不利にならないようにしなければならないと話しておられましたが、まさにその通りだと感じられました。ただ、これまでの日本からの参加者は英語の発表力の問題もあり、役人の場合は自由に意見が言えないという制約もあり、結局のところ、あまり主張できずに1回参加すると二度と現れないというケースが多く、世界のハードルは高いとも言っておられました。
5第5章の布施勉教授の講義、第9章の大内和臣教授の講義を参照して下さい