日本財団 図書館


たとえ政府の役人であっても、いったんトラックIIの会議の場に出たら、あくまでもプライベート・キャパシティの範囲で参加すべきだというのがルールです。そういう前提で忌憚の無い話し合いをして、地域の安定のために協力しようというのが、CSCAPというトラックII会議の趣旨です。なぜ、そんなものをやるかというと、政府の立場に縛られているトラックIの会議では本音の話ができないからなのです。

CSCAPのグループは、「なかなか良い線までいっていた」とわたしたちは思っていました。各国とも個人のベースで参加して、活発な意見を出し合い、かなりの成果も上がっていたわけです。ところが、中国の代表がはいってきたとたんに、会議が遠慮がちなものになり、うまく進行しなくなってしまったというのが私の印象です。

もっとも、「かなりの成果を挙げていた」と言うと誤解を与えるかもしれませんね。やはりマルチでやる関係上、あくまでもコンフィデンシャル・ビルディング・メジャー(信頼醸成措置)とか、「相互理解」の範囲にとどまるわけです。そういう限界はあるのですが、まがりなりにも、会議の内容が、各国の施策にある程度反映されるという認識があり、日本からは国際問題研究所がCSCAP-JAPANとして代表して参加されてきたわけです。

ところが、いま申し上げましたように、3、4年前でしたか、中国が入ってきた。そこで、台湾はオブザーバーという形での参加にされて、制約のある地位に置かれることになりました。この件については、私とバレンシアとで討議をしたことがあります。二人とも感じたことは、「中国の人は、建前しか言わない」ということなのです。要するに政府が言ったことしか言わない人達なのです。あるいは、会議の場で、なにか難しい問題が生じると、一回ごとに本国に照会する。そのため、会議の進展が遅いのです。つまり、せっかくの民間の会議にも政府の影が落ちる。それでは、何のためにわざわざ民間で会議をやっているのか、意味がなくなってくる。そのような会議では、参加者の中にはフラストレーションを感じる人が多かったことも事実です。

 

2.2.:きわめて抽象的な形に終止した、「協力のためのガイドライン」

 

そこで、なんとかしようということになって、Maritime Cooperation Working Groupが成果として出したのは、「協力のためのガイドライン」でした。これは、オーストラリアのサム・ベイトマン(Sam Bateman)議長が中心となり、苦労してまとめたものですが、コンセンサスを必要としないことから、残念なことに、きわめて抽象的な形になってしまった。この点について、バレンシア氏は、地域の海における安全保障問題あるいは対話の場として、現在のCSCAPには大いに不満を持っていると言っていました。これは私自身の考えと共通するものですが、彼は、アメリカのメンバーを代表して、会議に参加して、感じたことを本音でいっている。

もともと、彼は、人間的にも非常に面白い人で、ユーモア好きですが、CSCAP会議に出ると、彼のキャラクターが死んでしまう。私は、「彼もずいぶん抑えているんだな」、という感じで様子を見ていました。今回は、夕食を共にして、彼と忌憚のない意見交換をしましたが、この点は確認することができました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION