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1.12.:マルチ安全保障体制は機が熟すのを待つ

 

ただ、博士は安全保障だけを取り上げて論文等を書いたことはないんです。これまで意見交換した中で、わかったことは、漁業とか環境の問題でマルチが出来上がることはあっても、安全保障の問題だけは、マルチでは難しい。とくに、太平洋では非常に難しいのではないかという考えを持っているようです。

したがって、安全保障の大きなソフトセキュリティである紛争予防とか予防外交というソフトの面はできるところからやっていく。しかしいわゆる海軍の作戦を含めた防衛の問題については、あまり急がないで機が熟すのを待った方がいいのではないかという、われわれにとっては、きわめて常識的な判断をしているようです。

というのは、そもそもこの地域で、平和を維持できる海軍力は米海軍しかない。その米海軍は、海洋法条約も批准していない。こうした条件下で、それぞれの地域の海の問題に米海軍が介入したらどうなるのか。米海軍はあらゆる雑多な低次元のゴタゴタに介入しなければならなくなる。それは避けたい。

太平洋艦隊が「警察的任務と思われるような低次元の紛争」に介入したくないと考えているのが、マルチを急がない一番の理由なんです。というのも、マルチができると、海賊とか漁業の問題にいちいち関与させられる、これはたまったものではない、というところがあります。

またそれによって、例えばの話ですが、安全保障の問題を一緒にやっていこうということになった場合ですが、例えば、ASEANにある非核地帯構想というようなものの「南シナ海版」が提案されるということもありましょう。それがさらに進んで「非武装海域」にしようじゃないかという話が出てきたときには、米海軍にとっては完全に本末転倒な話になってくる。そういう話が出ないようにしなければいけないということもありますので、安全保障の問題というものも、マルチの場に持ち込むのはまだまだ当分先の話ではないかという考えを持っているようです。

小川 どうもありがとうございました。それでは次に川村さんにお願いします。

 

2:川村純彦氏報告

 

川村 バレンシア博士とは、2月17日の夜、夕食を挟んで話す機会がありました。8〜9年前からCSCAPのMaritime Corporation Working Groupで一緒に会議等に参加した仲です。私は地域の安全保障の問題について、彼は主として資源の話や領有権問題等についての研究発表を行いました。

 

2.1.:中国が参加するとトラックIIの会議が成り立たなくなる

 

意見交換は、まず、3〜4年前から、中国の代表がCSCAPのグループに参加するようになったことによって、議論のペースがスローダウンし、会議の成果が上がらなくなったということで、二人の意見が一致したことから始まりました。

 

 

 

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