そこに非常に根本的な矛盾があるのです。ですから、公海と管轄水域全てを含めて、お互いの利益を尊重しあい、お互いの利益を守るような安全保障というものを考えていけばいいのではないか。そういう総合管理のあり方が必要です。
それにはどうしたらいいか。排他的経済水域を持った多くの国は、おおむね海洋との関わりの歴史が浅いし、技術的、知識的、能力的にも低いところがある。そこで、やはり、一日の長のある海洋国家のリーダーシップを尊重してほしい、ということが、わたしのペーパーには書いてあります。そのあたりは理解してもらえたのではないかと思います。
36:小さいものから始めて、安全保障の大きな枠組を作っていく発想
それから、いま紹介のあった最後の質問が非常によかった。「他の地域からレジームを持って来られないのだろうか」ということですね。あるいは「海賊対象という小さいものから始めて、やがて大きな安全保障の枠組が作っていけないか」という発想は非常によくわかった人だからできた質問だと思うんです。
たしかに、NATOは共通な敵があったから成立しました。しかし今NATOが一番苦しんでいるのは、安全保障しか語れないというところにあるんです。そういうことで、この間のPartnership for Peace(平和のためのパートナーシップの構築)を見ていればわかるんですが、NATO以外の国ともやっていくことになると、デモクラシーと人権を非常に大きなテーマとして取り上げざるを得なくなる。
アジア太平洋では、軍事的な安全保障からではなくて、海賊、資源、環境など、小さな周辺的なものから入っていった方がむしろ入っていきやすいところがあるのではないか。
37:他の地域からアイディアや方法論を持ってくること
そして、「他の地域からアイディアや方法論を持ってくる」ということについては、現在地中海と黒海のほうに「地中海・黒海委員会」というのができていますが、これは安全保障も含めた総合的な管理について総合管理の枠組を作っていきましょうという動きなのです。そちらには、委員会ができて動きつつあります。このあたりについてもこれから取り組んでいくといいのではないかなと思いました。
小川 秋元さんが、川村所長にうながされて、現場でしゃべられたのは、3、4分でしたけれども、論文を渡しましたので、皆さんに読まれることと思います。書いたものは100%理解されますからね。
アメリカが国連海洋法条約に入っていないものですから、アメリカの中には海洋法のエキスパートもいないし、アジアの諸国がやる海洋法の会議にもアメリカは呼ばれないということで、完全にアメリカがアウトローのようになっています。そういう意味で今回、川村所長と秋元さんが来られて、短い時間でしたけれども、海洋法の問題をお話しいただいた。しかもインパクトのあるペーパーをみんなが欲しい欲しいというので、置いていったわけですから、非常に意味があったと思います。