日本財団 図書館


それから、「他の地域のモデルを取り入れられないのか。例えばアトランティックでうまくいったモデルをアジアにインプリメントできないだろうか。そういう可能性について考えたことがありますか」という質問がありました。

それに対して川村さんがおっしゃったのは、「アジアでは、マルチのやり方を欧州のケースをもとにいろいろ学習したけれど、どうも欧州とアジアは違うという結論に達した」ということでした。「まず、かつてのソ連のような共通の脅威がない。それから各国の能力にあまりにもばらつきがある。その上、いつも語られない影のアジェンダであるけれども、中国問題という大きな問題があり、中国と各国の関係はそれぞれ非常に微妙である。この三つが違うので、やはり他のモデルを右から左に持ってくることは難しいのではないか」と話しておられました。

特に中国の問題については、誰も中国がとは言わないし、言えないと思うんですけれども、やはり中国の問題というのはみんなあると思っている。したがって、マルチのものを作っていくとすると、条約とか成文でまとめたものより、現実的なものよりはバーチャルな関係を作っていくべきだということをお話になりました。

 

34:海洋法条約で、アジア諸国と米海軍がぶつかり合うのはしょうがない

 

秋元 学生と呼ぶよりは、研修員と呼んだほうがしっくりくるのですが、多数の研修員から非常にいい質問がいっぱい出たと思うんです。それで、予定していなかったんですけれども、私が最近発表した論文(OPKに関する英語論文)を持っていたものですから渡しました。そこにもいろいろ質問されたことに答えるようなことが入っていたのではないかと思います。

海洋法条約によって、アジア諸国と米海軍がぶつかり合うことはしょうがないところがあると思うんです。たとえば、インドネシアの群島水域の航路帯の問題もそうですが、特に東アジアの沿岸国が主張する資源、環境、通航、主権にかかわる権利と、アメリカ海軍の航行の自由は、根本的に主張が違う。私が書いたペーパーには、それを総合的に管理する体制でやっていきましょう、資源も環境もそういう管理をする必要があると書いてあります。

それから、航行の自由をどのようにしてぎりぎりまで確保していくかというテーマもあります。そういうものを総合的にしていく方法はないものだろうか。それには、資源とか環境とか航行の自由とかを、個々のものとして見るのではなく、総合的に解決していく必要がある。そうすると当然、そこには安全保障という問題も入ってくる。

 

35:総合管理のあり方を追求するしかない

 

排他的経済水域での管轄権を主張する多くの国には、海軍力がないか、あっても非常に弱いので、彼らにとっての伝統的な安全保障観念はきわめて否定的です。「水平線の向こうから海軍力がやってくると必ず戦争になるんだ」、「平和が歪められる」と言うものなのです。

ところが、公海の自由を主張する国は、航行の自由をできるだけ確保することが安全につながると考えている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION