27:地域の安全を担う役割はアメリカ海軍にしか期待できない
私が申し上げたことは、「国連海洋法条約の条文の逐条的な解釈に突っ込む前に、この地域の平和と安定を保つために『航行の自由』や『シーレーンの安全』が非常に重要であるとの認識を持つことが必要だ。みなさんの国が生存し、繁栄していくためには、やはり、この地域の安全を担う主たるプレーヤーの役割はアメリカ海軍にしか期待できないことを認めざるをえないでしょう。すると、アメリカ海軍の行動の自由を束縛、制限するようなことは、結果として、みなさんの国益をそこなうことになるのではないか」と問いかけたわけです。
わたしは「国連海洋法条約の逐条的な審議より、各国の戦略的な目的がどこにあるのかをはっきり認識した上で協力体制をつくることが大切である」と論じました。これに対して、参加していた人たちから非常に鋭い反応があったのは嬉しかったですね。
28:日韓海上協力の事例
小川 最初の質問は、白人の年輩の白い髪の男性からでした。誰が何を言ったかは言わない規則になっているそうですから、名前とか国は言いません。その人は、「アジアについては、わかった。非常にいい話だけれども、具体的にこういう話は進めることができるのか」という質問でした。
川村 「具体的に」という質問でしたので、私は全体の構想を示して回答としました。大事なことは、キー・ストラテジック・プレーヤーであるアメリカ海軍の行動の自由が確保されることなのです。各国がアメリカ海軍支援し、アメリカ海軍が自由に動けるようにする。それと同時に、各国も自分の能力にしたがって協力するようにしようじゃないか。これは、一面では、現在貧弱な海軍や沿岸警備隊の増強を求めることになるかもしれない。しかし、各国が無秩序に軍拡するのではなく、地域の平和と安定という大目的を話し合い、同じような装備の海軍や沿岸警備隊を揃えるということです。たとえば、掃海艇や警備艇を持つとしたら、ベトナムやフィリピンやマレーシアが同じような艦艇を保有する。隣同士が同じ装備を持つならこわがることはありません。一カ国だけが潜水艦や空母を持つから猜疑心をひきおこして大軍拡が始まる。
各国がそれぞれの能力にしたがって協力していけるスキームを作ったらどうかという提案をいたしました。そして、「そういう話が一部の国同士では進んでいる。現に日韓の民間シンクタンクが2年前から進めている『KJ−Shuttle』対話では、『日韓の海の協力』が具体例に話されているという説明をしましたが、その件については納得していただいたと考えます。5
小川 日韓の海の協力の話ですが、これをオーストラリアに話したら、オーストラリア側からもサム・ベイトマンさんを始め、これを支持するとの意見をいただいている。「そのうちに、韓国との協力は、オーストラリアにまで広がって行くでしょう」という話を川村さんが、アドリブでなされたら、皆さん熱心にノートを取ったり、驚いた、というような反応でした。
5 日韓安全保障対話(KJ Shuttleシリーズ)については、http://www.glocomnet.or.jp/okazaki-inst/ 参照。