25:「2年前まで米海軍が海洋法条約に懸念を抱いているとは思ってもみなかった」
川村 今回、わたしが扱った「海洋法条約と安全保障」というテーマは、実は、二年前に行われた前回のハワイ調査で、CINCPACFLT(米太平洋艦隊司令部)から提示されたテーマなのです。それまで、はっきり言って米海軍が国連海洋法条約に懸念を抱いているとはわれわれは思ってもいませんでした。ところが、ハワイに来てみると、CINCPACFLTは、国連海洋法条約に付随する問題に対して、とてもナーバスになっていました。これは、新鮮なおどろきでした。
その時、「アメリカ海軍が一番心配をしていることを是非お話ししたい」と、切り出されて、そこに提示されたのが、国連海洋法条約の群島水域問題でした。インドネシア、フィリピンが、自国の領有する外側の島々を線でずっと結び、その範囲を「これからは自分の領海である」と主張する。そして、そこを通る船にいろいろな航行上の制限を課そうとする。特に、軍艦に対して制限を課そういう動きがあるために、アメリカ海軍は非常に心配しておりました。わたしは、その時から2年間になりますが、この群島水域問題についてずっと考えてきたのです。
26:各国の過大な権利主張
そうしたところに、去年11月、バンコックのNGOであるSEAPOLがマニラで国際会議を主催しました。この会議のテーマが「群島水域の自由航行」だったのでピンときました。この会議については、半年以上前から、SEAPOLのフランシス・ライ博士から相談を受けていたのですが、よろこんで参加させていただくことにして、私と小川さんがマニラに参りました。(第1回海外調査「マニラ編」参照)4
そこで、わたしは、ディナー・スピーチを命ぜられて30分間話す機会を与えられました。そして、今度はハワイに参りまして、APCSSでのレクチャーの機会がありましたので、「マニラでは、こういう問題提起をしたんだが、みなさんはどうお考えか?」という形式で、みなさんに問いかけたわけです。
その要点を申しますと、「新国連海洋法条約レジームにおける各国の権利規定は非常に曖昧です。そのために、各国が過大な権利を主張し始めました。それぞれの国の小さな国益は増進されるかもしれないが、結果的には、各国にとって大事なシーレーンの航行の安全や自由が阻害されることになってしまった。各国の過大な権利主張は、領有権問題をも複雑にしている。このことがわたしにとっては心配だが、みなさんはどうお考えか」と問うたわけです。
4 平成11年 公海の自由航行に関する普及啓蒙事業 第1回海外調査(マニラ)のうち、「国連海洋法の通行権に関する国際会議ハイライト:日本は2004年の国際海洋法レビューにむけて準備すべし」参照。報告者:川村純彦・小川彰。国際会議International Conference on System Compliance MARITIME TRANSIT ISSUES REVISITEDへの参加報告。