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しかし、わたしは、APSCCの教官に若干同情的な気持ちも持ちました。というのは、いまだにアジア太平洋には、マルチの体制ができておりませんが、新しい体制を企画する場合、リアルすぎる話題を持ち出すと、各国の国益がリアルにぶつかりすぎて、信頼醸成どころか、不信感がますます募ることになりかねない。「国と国との関係は国益と国益とのぶつかり合いだ」という話になってしまうことになる。

日本でも、防衛対話や安全保障交流が頻繁に企画されていますが、その時のテーマは、ほんわりとしたハト派的なもので、その方が、話を積み上げやすいというところがあります。学生さんが「APCSSがリベラルすぎるのではないか」との所見を出したのは正直なことろだと思いますが、それ以外にやりようがあるのか? APCSの教官も非常に苦しいなと思いました。

ただ、こういう企画は、まさにアメリカにしかできない。そして、非常に重要なことですので、アメリカがやっていることを、日本は支援していく必要がある。そして、この地域で支援できる能力があるのは日本しかない。教育内容のリベラル過ぎると映るところは、今回、山本・川村両提督がそれぞれストレートに意見をご進言されていたので、学生にも教官にも伝わったと思います。

 

24:海洋法条約と安全保障をつなげた川村純彦氏の特別講義

 

若干長くなりますが、このAsia Pacific Centerに到着しまして、冒頭、川村純彦所長が海洋法に関するテーマで特別講義をされました。海洋法と航行の自由、安全保障を結びつけてお話をされました。これは非常に良いテーマだったと思います。

といいますのは、海洋法条約から安全保障につなげた話は、アメリカがいま一番できない分野でして、おそらくAsia Pacific Centerでもこういう講義は全くやっていない。それがなぜかというと、アメリカ自身が海洋法条約を批准していないことから研究者がほとんどいない。アジア諸国で開催される海洋法条約の国際会議に、アメリカがよばれない。そして、アジア太平洋の沿岸諸国が主張する権利の拡大と、アメリカ海軍の行動の自由の確保が、まさに意見の対立点となっているからです。アメリカは、沿岸諸国の権利の拡大の主張を「クリピーング・ジョリズディクション」とさえ呼んでいる。

ですから、こういう問題は、Asia Pacific Centerでは議論として取り上げにくいところだったと思います。ですから、今回の特別講義は非常にいい刺激になったと思います。

日本からの留学生に聞いたんですが、「あの特別講義は非常に話題になった。川村提督が問いかけた内容が、あとでいろいろ議論された」という話も聞いておりますので、非常に有意義であったのではないかと思います。

小川 川村さんにレクチャーをしていただいたわけですけれども、レクチャーが終わったあと、14ヶ国の学生、学生といってもみんな海軍大佐クラスですけれども、全員がペーパーがほしいと言う。教官もペーパーをくれということで、ペーパーを渡して、向こうでコピーして全員に配布するということでした。どういうお話をされたのかということと、その後の質疑応答がまた活発でしたので、そのあたりのことについて川村さんご自身からお話をいただきればと思います。(講義録(英語)を末尾に添付)

 

 

 

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