その背景には、アジアの国の留学生、しかし留学生といっても各国の海軍大佐や少将ですから、「アメリカは傲慢だ」とか「何言ってるんだ」という反発の気持ちがある。
APCSSの教育部長は、「留学生相互の自啓自発によって理解を深めるのが望ましい」と言っていましたが、その通りだと思いました。
このAPCSSの「13週カリキュラムコース」には、日本からも、これまでに民間や海上自衛隊から留学生が参加しています。
現在、日本からの留学生は海上自衛隊派遣者が1名ですが、わたしは彼に「自らの勉学ももちろん重要だが、それ以上に、各国留学生と知恵を分かち合い、より良い人間関係を構築することが財産になる。シーレーンの安定確保の深い意義について、アジアの留学生を日本の立場から大いに啓蒙宣伝することに努めてほしい」と言いました。
5:アメリカのコミットメントに対する疑問を抱かせたら逆効果
APCSSでは、まったく自由に見学させてもらいましたが、わたしは、あの教育の姿勢にはちょっと注文があります。そこで、詳しく説明しますが、あの教育は、あまりにもリベラル過ぎます。その結果、アジア太平洋の国々に、アメリカのコミットメントに対する疑問を抱かせている。これが、不安感をかきたてることになっては逆効果です。
冷戦終結でソ連が崩壊し、アジアにおいては、自由圏諸国と社会主義大国の対立が避けられないとわたしは見ています。自由圏諸国は米国を中核とし、一党独裁の社会主義大国とは中国のことです。両者の対峙が「21世紀の次のステップ」の基本的な枠組みとなることは避けられないというのがわたしの大局観です。
もしそうであるとすれば、アメリカは自由圏諸国の中核として、アジア太平洋地域の国々をまとめていかねばならない。アメリカは、そういう責任ある立場にあるのです。もし、アメリカが、あまりにもリベラルな態度に終止し、曖昧な政策をとり続ければ、自由圏諸国はもとより、中国にも誤った信号を与えかねない。具体的には、台湾海峡や南沙群島、あるいは、その他の領土問題で、アメリカに望みたいのは「ヘゲモニー拡大の行為は如何なる国にも断乎許さない」と言う強い意思表示なのです。これをしないと、台湾が「自分は大丈夫か?」と考えるようになる。次は韓国でしょう。「アメリカが当てにならない」とひとつの国が疑念をいだき、みずからの身を自分の力だけで守ろうとし始めたが最後、そういう潮流はドミノ式に広がります。つまり、アメリカの仲間内に対する曖昧な態度は、将来、アジアに相互不信感を広めかねないのです。
韓国をはじめ、東南アジア諸国は、2000年にわたり中国の影響を受けてきました。中国はランドパワー(大陸)国家です。中国周辺国の国民の潜在意識の中には、日本人やアメリカ人などの海洋国家とは異なる「対中国観」がある。われわれは、これに注目しなくてはなりません。