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2:新海洋法によって公海での自由航行が阻害される方向へ

 

さて、2年前のCINCPACFLT訪問時(クレメンツ大将の時代)に、最大の話題とされたのが、アジア太平洋海域で、米海軍の自由な航行に障害がでそうだという話しでした。具体的には、アジア太平洋の発展途上国が、国連海洋法条約の200海里圏内の資源活用や海洋環境保護に伴う権益の強化に注目し、公海における自由航行を阻害する方向に動きつつある。それが、地域の安定と繁栄の維持のために憂うべき事態であるという認識でしたが、そのような認識は、2年前とまったく変わっていませんでした。

 

3:シーレーンの二つの機能:物流機能と軍事力の迅速展開機能

 

そこで、シーレーンそのものについて簡単にお話しせねばならないと思うのですが、現在のシーレーンには二つの重要な機能があります。その一つは地域経済の発展を支える物流機能であり、もう一つは地域の安全と安定を支える軍事力の迅速な展開を可能とする機能です。1

特にアジア太平洋地域において、安全と安定が維持されるためには、中核となる米軍事力が、いつでもどこでも迅速に展開可能でなければならない。それを担保するのが、シーレーンの自由航行の確保なのです。米軍事力が迅速に展開される可能性があることによって、物流を支える機能が確保され、地域の経済発展が維持されているんです。

したがいまして、アジア太平洋地域の国々がこの機能を阻害するようなことがあると、地域の安全や経済発展に支障がでる。ひいては中国のヘゲモニー拡大を誘発することにもつながる。そんなことになったら地域の国々の国益に決してプラスにはなりません。

いま沿岸国は、「200海里圏内の資源活用」や「海洋環境の保護」が重要だといっていますが、それにも増して、大事なことはなにか。それは、地域国家の安全と発展のためのシーレーンの自由航行確保です。これが何よりも重要であることを、APCCSSでは、さまざまな国の留学生諸君に理解してもらうように啓蒙する必要があると思います。

 

4:アメリカがはっきり言いすぎるとアジアは反発する

 

しかし、教育を担当しているアメリカ人教官が、「君達のナショナリズムの高揚は判るが、近視眼的になっちゃいけない。アメリカを追い出したら、結局、君達の国益がそこなわれるんじゃないか」などと、あまりに直接的、あるいは強く言うと反感を招く恐れがあります。

 

1 『うみのバイブル(下)』の山本誠「シーレーン原論」参照。www.glocomnet.or.jp/okazaki-inst/ 掲載の「山本提督論文」を参照してもよい。

 

 

 

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