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水温及び水深情報は、回遊行動を把握する上で、貴重な情報であるとともにタグの脱落を確認することもできる。日本鯨類研究所では、曳航式サテライトタグ(図2.トヨコム製、直径35mmの長さ206mm、浮力体部直径78mmの長さ120mm)を用い、南半球産ミンククジラ2個体に対して装着に成功している。しかしながら、1台は装着後全く発信しない状態で、もう1台は、60日間にわたり送信したが、位置情報しか得られないために脱落して漂流しているものか、装着されているものかが判断できない状況であった。発信寿命を6ヶ月とするために、毎分1回の発信を16時間繰り返し8時間の発信停止をセットしたが、南極海で使用したためか、寒冷による電力消耗による著しい機能低下がうかがわれる。1年以上の送信を行う場合、発信間隔をあけることや発信時間を制限することで対応しているのが現状であるが、発信精度が落ちるという問題点がある。

サテライトタグの場合、発信基盤が衝撃及び水圧に弱いことがあげられている。データロガ、アーカイバルタグ及びポップアップタグでは3000m耐深性能を持つものが開発されているが、サテライトタグでは1000m耐深性能を持たせると、重量と大きさが嵩張ってしまう。GPSラジオタグに関しても耐深性能を持たせるためにおおがかり装置になってしまう状況である(図3)。

今後の開発においても、小型軽量を伴う長寿命のエネルギー確保と発信精度の向上は命題である。鳥類のサテライトタグは小型軽量が進んでおり、ソーラーバッテリーにより半永久的に電力が確保され40gにみたないタグが開発されている(マイクロウエーブテレメトリー社製(図4)。海産哺乳類に用いられている比較的小型軽量のタグ(図5.テロニクス製)でも大きさも重量も10倍近くになる(鯨類に装着するために購入したものは、耐深性能は200mである)この主な原因はリチウム電池にある。

アルゴスでは、衛星の増設により受信側が強化され、発信側の省電力化が進んできているので、電池の小型化がより進みタグの小型軽量化が進むことが予想されるが、耐深に関しては他のタグと比べ開発が遅れていることは否めない。ミンククジラの浮上時間は3秒程度である。このわずかな時間内にアンテナの有効な発信姿勢確保は、サテライトタグの特徴である位置情報の精度を向上させるために重要である。しかしながら、小型軽量化、耐深、長寿命化の開発に忙殺されているのが開発の現状である。(Dr.Bruce Mateのコメント及びDr.Paul W.Howeyの聞き取りに基づき、日本鯨類研究所における実験を整理した)

 

 

 

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