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4. モデル装着方式の選定と設計・試作

 

4-1. 有力装着方式の選定

 

4-1-1. 「ピン打ち込み方式」と「サクション・カップ方式」

第1章で検討した既往の装着方式の検討から、「ハーネス方式」「ボルト締め方式」「接着方式」の三つは、実験的にはおもしろいかもしれないがくじら類を対象にする限りは必ずしも適していないといえる。というのは、これらの方式でくじら類を対象として装着しようとする場合、オープンオーシャンで浮上遊泳中のくじらをいったん捕獲して装着して放す(catch-&-attach-&-release)ようにしなければならず、これは事実上、困難だからである。

しかしながら、「接着方式」のうち『表皮下埋め込み式』については、メリットとして成功すれば他のどの方式よりも装着が確実で、長期の保持期間が期待できる点があげられる。課題としては、埋め込むほどにどのようにして打ち込むのかという技術面と、アンテナだけが表皮上にでるようにするのはどのようにしたらよいか、また、アンテナを浮上遊泳時にどのようにして確実に直立させるか、という点がある。

以上のことから、現在、くじらへのバイオテレメトリー標識の装着において実用レベルに達している方式は、第1章で述べたように、オレゴン州立大学のB.R.Mateらのグループが採用している「ピン打ち込み方式」と、カナダのダルハージー大学のS.Hookerらのグループが用いている「サクション・カップ方式」の2つであるといってよい。

わが国での実績は現在のところ「ピン打ち込み方式」のみであり、実質的には開発が着手されたばかりで、まだ幾多の解決すべき問題が残されており、システムとしての完成はこれからであるといえる。

B.R.Mateらのグループは、当初はシリンダー型ハウジングに水深、水温センサーを組み込んで「ボウガンによるピン打ち込み方式」でタグ装着を行っていたが、ハウジングのサイズが大きくなると脱落の確率が高くなるため、現在は取得対象データを位置情報のみに限定し、送信体のサイズを極力小型化することで装着の確実性を向上させるとともに、装着保持期間の長期化を図っている。

なお、この方式が適用されているくじらの種類は、シロナガスクジラ、ザトウクジラ、セミクジラなど大型で回遊範囲の広大な鯨種である。

他方、S.Hookerらのグループが採用している「サクション・カップ方式」は、標識にTDRとVHF送信器を内挿するためハウジングのサイズはやや大きめになり、短時間で脱落しかねないという難点がある。また、くじらの表皮がウネウネと変化するのに追随できないであろうから装着を確実かつ長期に確保するのが必ずしも容易でない。しかし、第一に装着対象が小型種であるトックリクジラであること、第二に回遊移動範囲があまり広くはないこと、第三に研究目的が潜水行動の解明にあること、などから、装着個体数を多くして回収率を向上させることで精度のある解析を目指しているといえよう。

 

 

 

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