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2. 海中立体データ収集の意義と装着方式に対する技術的要請

 

2-1. 期待される海中立体データの内容と収集の意義

 

2-1-1. 海中立体データの項目と精度

海洋観測上の計測項目を何に定めるか、またその精度はどのレベルまでを必要とするかについては、基本的に、データ収集のユーザと利用の目的によって決まってくる。くじらの回遊追跡が第一義的目的であるならば、位置情報は1km以内の精度で満足することになろうが、海中立体データの収集が目的となると、水深、水温データの精度も少し違ったレベルとなりうる。

(1) 位置の計測と精度

くじら類に限らず、バイオテレメトリー情報として位置情報は必要不可欠の要素である。要求される精度は、調査の目的や趣旨によって多少の幅がみられるが、おおよそ±300m〜±1kmの範囲のようである。ちなみに、ARGOSシステムにおいては、クラス3で±150m、クラス2で±350m、クラス1が±1kmの誤差範囲(Taillade;1992)とのことである。

鯨の生態および回遊経路を把握することを第一義的目的とするならば、たとえば北太平洋全域にわたる空間と、月単位の長い時間のスケールで、位置情報が求められる。したがって、計測精度はクラス1の±1kmレベルで、かつ、計測間隔は1日1〜2回程度、計測期間は数ヶ月〜2年程度が望ましいとされる。

しかしながら、本システムがまだ十分に実用化されていない現在、アメリカのB.Mateが主張しているように、まずは位置情報を確実に収集するのが良いといえよう。次項からのものは、システムが稼動して十分な実証を経た上で収集対象となるものであろう。ただし、実用化プロセスとは別に、技術開発上は同時並行して取り組むのは当然である。

(2) 深度の計測と精度

鯨類の行動状況を知るうえで、潜水深度の情報も、位置情報と同様に必要不可欠の要素である。

一般に深度を計測する場合、センサとしてはストレインゲージ式の圧力センサを用いる。これは、圧力(水圧)よってひずみが生じることにより抵抗値が変化する素子(ストレインゲージ)を用いて、この抵抗値の変化を電気的に検出し圧力を測定するもので、CTDセンサなど市販されている海洋計測器の多くがこのセンサを使用している。

使用する圧力センサを具体的に選定をする際には、予め最大計測水深(計測可能範囲)と計測精度を決める必要がある。まず最大計測水深であるが、鯨類の生息深度は一般に、平常数10mであるとされており、イワシクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、ゴンドウクジラ等のように比較的上層を索餌範囲とするものと、トックリクジラ、マッコウクジラ等のようにより深い深度まで潜行するものとに大別される。前者は500mより浅い範囲、マッコウクジラやトックリクジラにおいては時に2,000mにまで及ぶ場合もあるとされている。

 

 

 

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