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1-2. 今後の方向

 

クジラを対象としたバイオテレメトリーにおける標識装着方法は、オレゴン州立大学のB.R.Mateらのグループが採用している、データ収集・送信器を内挿したタグをシリンダー・ハウジングを返しの付いたロッドで皮下脂肪層に固定させる方法(ピン打ち込み方式)と、カナダのダルハージー大学のS.K.Hookerらのグループが用いている、吸着カップによりタグを表皮へ固定させる方法(サクション・カップ方式)の2つに、今後とも集約されるといって良いであろう。

「ピン打ち込み方式」は鯨体に多少の傷を与えるが、脱落するまでの時間が比較的ながく、したがってクジラの行動経路を連続性の高いデータとして把握することができる。またハウジング内に各種のセンサーを内挿することが可能である。ただし、センサーの種類の増加に伴ってハウジングも大型化していくことは避けられず、その度合いによって海中での抵抗が大きくなり、脱落の確率も高くなってくる。しかしながら、この方式で長い経験を有し、世界の最先端を切り開いているB.R.Mateらは、タグの大型化による過大なミッションよりもまずは長期にわたる位置情報の取得を第一義の要件とすべきであり、この点が確立しないうちに他の海洋情報の入手に拘泥すべきではない、との見解を述べている。この指摘は傾聴に値するものであり、本研究においても、おおむねの共通認識になりつつあるといって良い。まずは、多数のくじらにタグを装着すること、そのことによって位置情報だけでも膨大なデータが収集できることの実証が先決であり、複数の海洋情報の収集は、研究開発として同時並行して取り組むにしても、第二義的位置付けとするのが妥当と考えられる。

このような認識が成り立つのは、実は、実海域で海面に浮上して呼吸・遊泳中のくじらに送信器(タグ)をいかにして確実に装着するかという課題の解決が依然として極めて重要なクリティカルな課題であるからにほかならない。実際「ピン打ち込み方式」にあっても、次に述べる「サクション・カップ方式」にしても、装着方式として、空気銃によるのかクロスボウによるのか、あるいは突きん棒式によるのか、全く新しい方式によるのか、などの課題が立ちはだかっているからである。

一方、「サクション・カップ方式」は、鯨体を傷付けることはないという極めて重要な優位性を有しているものの、脱落の可能性がピンよりも格段に大きく、長期の情報収集には適さない。にもかかわらず、S.K.Hookerらがこの方法を採用している最大の理由は、鯨体へのストレスを極力減少するための配慮からであって、情報量の少なさはできるだけ多くの個体に標識をつけることと回収率の向上とによって、情報の蓄積を充実させ、解析の精度の向上を図ることによってカバーする、という考え方によるものといえよう。

いずれにせよ、装着方式の開発が今後の方向を決する鍵となっていることが理解できる。

 

 

 

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