ずいひつ
つれづれに (28)
長江流域の一隅で
山本繁夫(やまもとしげお)
岡安孝男(おかやすたかお)画
私の乗り組んだパナマ置籍船「リンダK」号が鋼材を積み、揚荷港の上海に向って神戸港を出港したのは、平成六年九月十九日午後四時二十分であった。
翌二十日夕刻関門橋の下を航行し、二十二日午前十一時五十分上海港入口の長江口錨地に到着し、入港の司令を待って仮泊した。
九月二十三日午前九時三十分抜錨、長江口南水道に入り遡江する。航路の入口にある赤いさび止め色を塗った灯船を通過して、一番ブイから順を追って航行を続ける。
四番ブイを通過すると左舷前方に水先船の白い船体が見えてきた。五番ブイ近くになり水先船から降ろされたボートに乗って水先案内人(パイロット)が乗船し、再び航行をはじめたのは午前十一時すぎだった。
本船の約一カイリ前方を三千トンほどのタンカーが同航している。現在漲潮流なので速力は平常より少し速い。九番ブイのあたりにくると、前方のタンカーとの距離も約三ケーブルに短縮したが、その後あまり変化がない。
遡江するにつれて反航船との出会いも多くなる。さらに進航して八五番ブイ付近では右に横沙島が見える。九一番ブイあたりまでくると長与島が見えてくる。航行中の船や停泊船の間を通ってようやく呉湘(ウースン)錨地に到着したのは午後二時すぎであった。
午後四時すぎに抜錨し長江流域右岸の上海十四区にある宝山埠頭に向う。宝山製鉄の工場や煙突が近くに見えるころになると、小さな艀のグループ、漁船、小型船が接近したりして、時にはひやひやさせられる。
周囲の船の動静に注意しながらの徐航である。長江の流れから西に入り込んだ製品埠頭に向って行足を減殺しながら航路に入っていった。右に防波堤の灯台を見ながら行くと、防波堤が右に曲がっている周辺にたくさんの艀が何列にも連なって停泊していた。
停泊しているところが狭いので、艀のグループをすぎて港内の少し広いところで左舷船首をタグボー卜(曳船)で押しながら、船首が港口に向くまで約一八〇度右舷回頭した。その後エンジンとタグボートおよび左舷錨を使用の上、徐航しながら宝山製鉄製品岸壁六号バースに係岸したのが午後五時すぎだった。
代理店や税関の職員がきて入港手続き終了後、午後七時半ごろ上陸して町に向った。岸壁にある倉庫の間の道を十分ほど歩くとゲートに出る。愛想のよい女の守衛に上陸許可証を見せながら暗い通りへでる。
しばらくはさみしい通りだったが少し行くと住宅街があり、そこをすぎると商店の看板がよく目につく商店街だった。少し広い通りに出たところのビルの一階に宝山酒家と書いた看板がみえた。
ゲイトを出て二十分ほど歩いたあたりから右に折れて広い道に沿って歩く。何件か見える百貨商場はかなりの人の出入りがあってにぎやかである。スーパーのような商店にも入ってみた。