船舶運航のシステム化(その2)
人・船・環境の強調を目指して
富山商船高等専門学校 助教授 遠藤真(えんどうまこと)
大阪大学 教授 長谷川和彦(はせがわかずひこ)
システム化への姿勢
海運界では、船舶運航における安全性と効率の向上への現実的な方策は「船舶運航のシステム化」のみであると考えられている。
人(操船者)・船・環境(自然および交通)の三要素からなる船舶運航において、三要素個々のみならず三要素が協調し合って十分な機能を発揮することが有効かつ、有用なシステム化の目標となる。
その実現には従来のシステム化の反省と船舶運航の特殊性に基づいた新しいシステム化への姿勢が必要である。
(1) 操船者主導のシステム化
人間−機械系のシステム化において、技術中心のシステム化が破たんし、人間中心のシステム化が不可欠であることは常識となっている。
船舶運航を構成する人(操船者)・船・環境(自然および交通)の三要素ではどの要素を中心に据えなければならないのであろうか?それは明らかである。操船者(ヒューマンオペレーター)が中心と位置づけられ、操船者が把握でき、操船者が求めるものを的確に提供し、操船者の行動によく応答できるシステムでなくてはならない。
成熟した要素技術を組み合わせることで操船者の作業を代替えすることだけを求め、実現可能性の高い作業から自動化するような技術主導のシステム化であってはならない。技術主導のシステム化でよく見られる完成度および確実性の低いシステム化は、操船者への新たな負荷を生み出すことにつながる。
操船者が理解し、納得し、協調し得るシステム化は、操船者の意見が十分に反映され、操船者の試行と評価を条件とする操船者主導のシステム設計、開発によってのみ実現すると考える。
(2) 人・船・環境のシステム化優先順位
技術中心のシステム化では、必要な機能を対象としたシステム化でなく、自動化・システム化しやすい対象から実現されていくのが常である。船舶運航においても同様の問題が発生している。システム化を適用しやすい船舶自体のシステム化が進められているが、陸上支援等の環境(自然および交通)のシステム化は遅々として進められていないのが実状である。
人・船・環境の三要素においてどの要素のシステ化が効果的であり、操船者がもとめている機能なのであろうか?
信号管制され、明確な通行区分を伴う整備された道路を古い自動車で通行する場合と、信号機もなく、道路もなく、四方八方から無秩序に自動車および自転車が通過している場所を先鋭的な知能自動車で通行する場合とでは、どちらが運転者および自動車にとって安全であるかは明白である。移動体をどんなに自動化・システム化しても、交通流等の環境を整備することにはつながらず、対象環境を通行する際の場としての安全性が向上するわけではない。
VTS等の環境(自然および交通)のシステム化がまず実施されるべきであり、これは環境または、場(海域)としての安全性の向上を促す。その後、人と船の協調したシステム化を進め、ヒューマンオペレータが能力を十分に発揮すること(ヒューマンエラーの防止)による安全性と効率の向上を目指すのが合理的なステップと考える。