(3) 標準的な操船行動規範の把握
船舶運航をシステム化するのであるが、個々の操船者が行う個々の操船局面における行動に対応したシステムを開発することは不可能である。個々の船舶の勝手な行動を前提にしては、海域のシステム化などその意味自体がなくなってしまう。
システム化は必ず機能の標準化を伴い、標準化された機能に基づいてシステムは構築されるのである。
船舶運航においても同様で、標準的な操船、または標準的な操船者の行動規範を把握することがシステム化に不可欠なのである。
前述のとおり、交通規則の抽象さ、船員技能育成上の慣習等から多様な行動規範による多様な操船が存在するが、操船者による操船の実態を解析し、多くの操船者の合意が得られる操船上の標準的行動規範および操船方法を求めることが、船舶運航のシステム化の基礎となると考える。
船舶運航システム化の新たな方向性
システム化への姿勢で述べた内容に適合する新たな船舶運航システム化に向けた幾つかのアイディアが生まれている。ここにその内容を紹介し、船舶運航システム化の新たな方向性を示す。
(1) 操船技術の要素技術展開
操船者の行う操船という行動を調査して、何が行動を求め、何を実現し、そのために何が求められるのか、技術的な視点から操船行動を分析することが試みられている。
船舶は計画どおりの航行を要求され、現実には、操船者にその実行が求められる。この要求された仕事がタスク(Task)である。このタスクを処理する技が技術(Technique)であり、技術を達成する能力を技能(Skill)と呼ぶのである。
このタスクは複数のサブタスク(Sub Task)から構成され、サブタスク個々に対応した技術が要素
技術(Elemental Technique)である。図2に示すように、課されたタスクを必要な技術と対応した技能により、実現した結果が性能(Performance)となる。
この考え方を船舶運航に適用し、出港から入港までの航海を構成する操船局面(タスク)について解析し、操船技術が以下に示す九種類の要素技術で構成されていることが求められた。
1]見張り 2]船位測定 3]操縦 4]機器取扱 5]情報交換 6]法規順守 7]非常事態 8]計画 9]管理
これらの要素技術について、三級、二級、一級の各海技士で必要とされる要素技術の具体的な内容も調査され、航海を構成する操船局面ごとに各海技士に課されるタスクと対応技術、求められる標準的な技能の定義がなされている。
この要素技術概念に基づく操船技術表現は、前章で述べた「標準的な操船行動規範の把握」を可能にするひとつの手法であり、この概念に基づく「操船者育成のシステム化」が試みられている。