ロンドンから見た海事政策事情
(社)日本海難防止協会
ロンドン連絡事務所 所長 徳永重典(とくながしげのり)
ロンドン連絡事務所の歴史
本協会のロンドン連絡事務所長は私で七代目となりました。
振り返りますと、昭和五十八年(一九八三年)の秋、日本財団および日本海事財団の絶大なるご支援をいただき、ロンドン連絡事務所を開設以来すでに十六年の歳月がながれました。
この間、SAR条約(一九七九年の海上における捜索及び救助に関する国際条約)の策定から発効、GMDSS制度(海上における遭難及び安全に関する世界的な制度)の策定から完全実施、SOLAS条約(一九七四年の海上における人命の安全のための国際条約)の大改正、OPRC条約(一九九〇年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約)の策定から発効など、海上安全と海洋環境の保護に大いに関連性のある国際ルールが策定され実施されるという時期でありました。
所長一人という小世帯ながら、わが国の実行性確保およびわが国の国際貢献のため、当地での情報収集や会議場での議論に参画し、当地においても関係者からその存在のみならず役割について十分認知されたところです。
私は、昨年十月に派遣され半年という短い期間ではありますが、この間にIMO(国際海事機関)の九つの会議とコスパス・サーサットの一つの会議に出席し、国際基準策定に至る経過、会議場での議論、各国の考え方に触れる機会を得ることができました。この機会に最近の海事政策事情について紹介します。
IMOの課題
IMOの条約の中で最も重要とされるSOLAS条約は、先ごろ映画でも評判になったタイタニック号事件(一九一二年)を契機に一九一四年に作成され、改正を経て一九七四年新条約となったものですが、この条約は一三七カ国が批准し、世界船腹量の九八%に当たる船舶がこの条約規定を順守する義務を持っています。
しかしながら、IMOで作成された約八〇の条約と八〇〇を超えるコードすべてにおいて、このように大多数の国が批准し義務を負っているわけではないのです。
IMOは昨年五十周年を迎えましたが、今後の課題を「実行(Implementation)」と「改善(Improvement)」としており、すでに策定された条約やコードを早く発効させ、ほとんどの船舶が国際基準を順守するとともに、既存の条約等を結果が起こる前の予防的措置として改善していこうとするものです。
換言すれば、条約やコードの義務履行により、世界のシーレーンからサブスタンダード船とその運航を追い出し、事故と海洋汚染をなくそうということになります。
九つの小委員会
IMOには海上安全委員会および海洋環境保護委員会の下に九つの小委員会を設けており、次のようなそれぞれの小委員会で議題にプライオリティをつけて審議がなされています(○数字は議題の優先順位を示し、上位三つまでを例示しています)。
(1) ばら積み液体及びガス小委員会
1]タンカーの追加的安全措置
2]タンカーのポンプ室の安全
3]MARPOL条約第一章の見直し
(2) 危険物・固体貨物・コンテナ小委員会
1]IMDG(International Maritime Dangerous Goods)コードの改正
2]MARPOL73/78条約附属書の実施方策
3]IMDGコードの強化のための関連条約等の改正
(3) 防火小委員会
1]SOLAS条約の防火関連規定の包括的見直し
2]煙規制と換気
3]旅客船および高速船の退船解析に関する勧告