O号船長は通航分離帯の正規レーンから外れ、自身の航行する船のみならず、E号等の他の船までも危険にさらした。それに加え、正規の通航レーンに戻るまでの約十分間、O号は交通の流れに逆行していた。VTISが正規の通行帯に戻るよう忠告したにもかかわらず、O号は交通の流れに逆行し続けた。O号船長の無節操な行動が危険な状況を引き起こし、事態が急速に深刻化していったことは明白である。
さらに、一四ノット以上の対地速力で航行していたことから、衝突の危機に的確に対応できなかったことも明らかである。
この事故による財政出費は巨額に至った。昼夜兼行の油防除作業が三週間続いた。シンガポール港湾庁の調整による油防除作業だけで費用はほぼ千三百万S$と見積もられていることから、油の流出量の規模がわかる。」
判決
1]EVOIKOS(船長Michael Chalkitis)罰金六万S$(約四百八拾万円)禁固三カ月
(内訳)
第一罪 シンガポール商船規則第一一五条違反「危険運航」
「衝突を避けるための十分な措置を取らなかった罪」
罰金五万S$ 禁固三カ月
第二罪 シンガポール商船規則第一〇三条違反「衝突予防規則の順守」
「適切な見張りを怠った罪」
罰金 一万S$
2]ORAPIN GLOBAL(船長Jan Sokolowski)罰金一万一千S$ 禁固二カ月
(内訳)
第一罪 刑法第二八〇条違反「無謀運航」
「無謀運航、怠慢航行により人命を危険に陥れた」
罰金一千S$ 禁固二カ月
第二罪 シンガポール商船規則第一〇三条違反「衝突予防規則の順守」
「速力過大で航行した罪」
罰金一万S$
おわりに
E号とO号の衝突事故は、日本をはじめとするシンガポール海峡利用国そして国際海事関係機関などに対して、改めて同海峡における潜在的危険性を認識させるものとなりました。
昨年十二月一日から、マ・シ海峡全域にわたる分離通航方式および強制船位通報制度が施行されていますが、日本人船長からは、船舶交通が整流され相当に航行しやすくなったとか、VTISの情報提供も安全航行に役立っているとの声が聞かれます。
さらに、シンガポールMPAはこの事故を契機にさまざまな航行安全対策や流出油防除対策を打ちたて実効に移すなどしており、その対応の早さには驚嘆すべきものがあります。
一方、シンガポール港の前面海域については、依然として通狭船と同港に出入りする船舶および漁船、小型船との関係や深水深航路を東航するVLCCの他船との関係には厳しいものがあるとの声もあります。
O号の追い越しが問題の端を発したとも言えますが、以前日本人船からよく聞かされた「パイロットに合わせるために航路内で速力調整を余儀なくされる船舶が多々あり、追い越しをせざるを得ない時がある」という状況は改善されたのか、また航路幅の問題など、調査、検討してみたいと考えています。
なお、関門海峡で採用されている「行き先信号(通狭信号を含む)」のようなもののシンガポール海峡への導入が効果があると思われ、その検討をアドバイスすることなど、現地として積極的に海峡の安全に力を尽くしたいと考えておりますので、皆様方のご意見、ご支援をお願い申し上げます。