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われわれは危機状態の下での非常に重要な五分間を取り扱っているのである。それは、被告人が二隻の船と船員の運命を決定した貴重な五分間という時間であった。この五分間のE号の怠慢な行動は、二隻の巨大タンカーが海上で衝突するかどうかを決定する有力な要因であった。

被告人は安全ルールに従って、この五分間に衝突を回避するための適切で前向きな行動に出る機会があったが、残念にも、E号の船長はこの五分間を懸命に使わなかった。故に、被告人がほんの五分間、自らの義務を怠ったという主張は、違反の重大性を軽減しないことは明らかである。

被告人は、分離通行帯を逆行して来るO号の存在を繰り返し警告されていた。二十時四十八分の時点でVTISは二隻の船が衝突の危機にさらされていることを明確に伝えた。この時点から被告人は右転して事故を避ける義務があった。

しかしながら、E号は措置を講じないまま同じコースを航行し続けた。また、E号は速度を半分まで減速しろというパイロット・サザン・ボーディング・グランド・ステーションからの進言に従わなかった。両船の進行方向が重なり、三分以内に衝突するということが明らかな時点でさえ被告人は措置を講じなかった。被告人が行動を起こしたのは衝突の二分前、二十時五十二分になってからであったが時すでに遅く手遅れであった。

本件事故は講じられた措置があまりにも小さく、そして遅かったことが衝突の原因となった典型的なケースである。それは、二十年以上の長い航海経験を持つE号船長にはあるまじき行為である。」

2]O号船長に対する判決要旨

「航行安全が大変重要であるということに議論の余地はない。いかなるときにも航行安全は第一である。特にシンガポール海峡のような狭いシーレーンでは、安全という言葉はより一層重みを増す。

はからずも、O号とE号衝突事故の結果発生した大きな災害が、これを証明してしまった。O号船長の行動のみが衝突事故の原因ではないが、O号船長の行動は両船の船員計七五人の生命を危険にさらしたことは否定できない。

 

O号とE号の衝突事故の模様

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