公判(下級裁判所)
○第一回(一九九八・六・二九)
この日は、公判が開かれる前に、O号船長があっさり次の起訴事実を認める申し立てを行った。
1]勧告による一二ノットを越える一四ノットで航行し、安全な速力での航行をしなかったこと。一四ノットでO号が航行した場合、停止するまでには最低でも十分間、一・三マイル必要であることを認めたこと
2]西航々路から東航々路に侵入、船舶交通の流れに逆行し、また適切な操船信号、疑問信号を発しなかったことなど必要な注意を怠り漫然と航行したこと
【検察側のO号船長に対する冒頭陳述概要】
「シンガポール海峡西航々路内を西方へ向け航行していたO号は、前方を同航中のタンカーを追い越すために、午後八時三十七分、東航々路に侵入した。午後八時四十分、VTIS(海上交通情報センター)はO号に対して逆行航路に侵入していることを通報し、西航々路に戻ることをアドバイスしたが、O号は了解したものの実際には何の行動も取らなかった。
午後八時四十六分、VTISはO号の前方約二・八マイルのところを、E号がパイロット乗船地点向け航行中であることを通報し、O号は了解している。午後八時四十八分、再度VTISはO号の前方わずか二マイルのところにE号が接近中であり、非常に危険な状態であることを通報している。午後八時五十二分には、O号とE号の距離はすでにわずか一マイル以下となっていた。
O号は、VTISから通報のあった午後八時四十分直後に西航々路向け転針すべきであったし、もっと早く正規の航路へ進路を向けることもできたはずである。さらに、O号船長はE号に対して変針するときに操船信号を発すべきであったし、またE号の動作に疑問を持ったのであれば疑問信号等による警告を発すべきであった。
また、マラッカ・シンガポール海峡通航規則第六条は、VLCCは対地速力一二ノット以下の速力で航行するよう勧告している。しかしながら、O号は午後八時〇〇分から八時五十二分の間、一四ノットまたはそれを越える速力で航行していた。」
○第二回(一九九八・七・三)
公判が開かれる前に、O号船長同様、E号船長についても、あっさり起訴事実(次の二点)を認める申し立てを行った。
1]O号との衝突を避けるための適切、十分な措置を取ることを怠ったこと
2]十分な見張りを怠ったこと
【検察側のE号に対する冒頭陳述概要】
「午後八時四十分、E号は東航々路を東方向け航行していた。VTISが東航々路に侵入していたO号に対して午後八時四十分から同五十二分までの間、元の西航々路に戻るようアドバイスを行ったが、O号が実際に元の西航々路に戻ったのは午後八時五十二分になってからであった。このような状況下、E号は午後八時四十八分に大きく右転し東航々路内にとどまるとともにO号は衝突を避けるため左転をしている最中で、結果午後八時五十四分両船は衝突した。また、O号船長は午後八時四十七分から適切な見張りを怠った。」
○第三回(一九九八・七・七)
本公判では、両船長がすでに犯罪事実を認めていることから、両船長に対して情状酌量弁明の機会が与えられた。
「抑止的効果を有する」判決をあくまで要求する検察側と弁護側が両船長の情状酌量の適否について応酬する展開となった。
この情状酌量弁明のなかで、E号に関して検察側はパイロットステージまで直行するため西航々路を横断しようとしていたことは明白と主張したのに対して、弁護側はE号に乗船きょう導予定のパイロットがすでにパイロット待機海域に到着し、無線にてE号を何度もコールしてきていたことを明らかにしている。