日本財団 図書館


特集/海外連絡事務所からのレポート

 

タンカーE号・O号衝突事件の裁判結果

(社)日本海難防止協会

シンガポール連絡事務所

所長代理 中村博通(なかむらひろみち)

 

はじめに

 

一九九七年十月十五日の午後九時前、シンガポール海峡内で、タンカー「エボイコス号」(以下、E号)(キプロス船籍、一四万二一八DWT、重油一二万六、四〇〇トン満載)とタンカー「オラピングローバル号」(以下、O号)(タイ船籍、二六万八、四五〇DWT、空船)が衝突し、E号から二万八、五〇〇トンもの重油が流出するという大事故が発生したことは、遠く離れたわが国の海事関係者の脳裏からも消えていないと思います。

この大量流出油の防除措置については、幸いにしてシンガポール海峡の強い潮流によって西方に流されたことや、地元シンガポールの対応とわが国など海外からの救援が迅速に行われたことから陸岸への漂着被害は最小限に食い止められました。

その後にシンガポールで開かれた「エボイコス」「オラピングローバル」両船長に対する裁判では、最終的に罰金刑、実刑判決の併科という非常に厳しい判決が言い渡されました。

本稿は、シンガポールで行われたE号・O号両船長に対する裁判の経過を簡単にとりまとめたもので、関係者の同種事故防止の参考になれば幸いです。

 

003-1.gif

左舷に大きな亀裂を生じたE号('97.10.18)

 

概要

 

両船長は、事故一週間後の十月二十二日、シンガポール下級裁判所に起訴された。(E号船長はギリシャ国籍、O号船長はポーランド国籍)

起訴翌日の二十三日、両船長はそれぞれ十万S$の保釈金で釈放されたが、当然のことながら、両船長のシンガポール国外への移動は制限され、事実上シンガポール国内に引留められることになった。

当初、両船長側は事前審理、マスコミ発表などで相互に相手船の過失を主張していたことから、罪状認否で検察側の主張する犯罪事実を否認するものと一般的には考えられていた。このため、本件の裁判は長期化、複雑化するものと予想されており、裁判所も両船長の罪状認否だけで五週間ものスケジュールを組んでいた。

しかしながら、いざ公判開始の段階になると、両船長とも検察側の主張する犯罪事実をあっさりと、しかもそれぞれ開廷前に認めたため、周辺の予想に反してあっけない意外な展開となった。

これは、これまでの事前審理の過程から相互に相手の過失を追求していくのは逆に不利と考えた弁護側が情状酌量にすべてをかける方針転換をしたものであった。

その後の公判で、両船長弁護側は情状酌量懇願の機会を与えられたが、検察側はこれに応酬し、あくまで以後の事故防止のためにも海運界への強い警告が必要として「抑止的効果を有する判決」(最高刑)を要求する展開となった。

判決では、裁判官は検察側の意見をほぼ全面的に受け入れ、かつ両船長に対する責任の重さを改めて強調、非常に厳しい批判とともに、両船長とも罰金刑については最高額を、そしてさらに二〜三カ月の禁固刑の併科を言い渡している。その後、両船長とも上級裁判所へ上告しなかったため刑が確定した。

以下、裁判の過程について要点を記述する。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION