6. LRT高速運転用信号システムの評価
LRV導入に際して、その性能を最大限利用して効果を上げる方策の一つとして、高速化が考えられる。その場合、導入初期の段階では、在来の路面電車に混在してLRVが走行することになるため、LRV用の高速運転用信号システムが考えられる。
本開発では、LRV用の高速運転に必要な機能を開発、検証し、その技術的な実用可能性を実験等を通して検証した。また、その上で、路面電車が走行する中にLRVを導入して、ある条件が満たされれば、LRVのみに高速信号を許可するという方法が効果があるのかについて、シミュレーションによる検討を行った。これらの検討結果について評価すると、以下の通りである。
(1) 高速運転実用可能性
GPSを利用した車両位置検知については、現状の技術水準では、その正確性、連続検知性に関しては必ずしも十分とは言えない結果が得られているが、本高速運転用システムは、先行車両との間隔が十分であり、信号機等の諸条件が満足される場合にのみ高速信号指令が出るものであり、その車両間隔(標準的には停留所間等、数100m以上)であるならば、精度は十分であることが確認された。従って、使用条件を吟味すれば、現状のGPSによる車両検知力式で可能であると判断できる。
試作装置による模擬的な高速信号指令試験を実施した結果、条件が満たされた場合に高速信号が出力され。それに従い、高速走行可能距離を走行後、信号が解除されることを確認した。また、高速信号が出力されても、条件が満たされなくなるか、異常を検知すれば、信号が解除されることも確認した。
従って、本構成による基本的な高速信号システムの機能、安全性については検証されたと言える。しかし、これらの検証は模擬的に実施したものであり、実際は交通信号機との連動が重要であるため、こうした結合試験が必要である。また、実用化に際しては、地上〜車上間の情報伝送の信頼性の検証等も必要で、実際に実施するには現車による確認が必要である。
また、現状の法規による最高速度(40km/h)に対して、どの程度の高速化まで許容できるのかについては、ブレーキ距離等の安全性との関係で、十分な検討が必要である。
(2) シミュレーションによる評価
こうしたLRT用高速信号システムの導入が、在来の路面電車と混在する場合にどの程度の効果があるのかについては、シミュレーションを実施して検討した。モデルとしては、交通信号機の系統制御や同方向(同一、対向)の自動車交通流が模擬できるものの、直線であり、交差方向の自動車流や右折車両等は考慮されていないため、単純なものではあるが、高速化の効果を把握するには十分であると判断した。その結果、交通信号機との関係もあるが、ある区間に遅れ等を生じた場合、LRT用高速信号を利用すれば、遅れの回復が図られ、結果として、混雑率の平均化、表定速度低下の減少が確認された。また、LRT用高速信号システムに出発抑止の機能を持たせると、さらに、遅れを生じても、等時隔制御に早く復旧することが可能となり、混雑率低下に寄与することが確認された。
従って、こうしたLRT用高速信号システムは、適切な走行司令(高速、出発抑制)があれば、在来の路面電車と混在する区間であっても、利用者、事業者から見ても効果(混雑率、評定速度等)があり得ることが認識された。
ただし、この結果はあくまでシミュレーションによるものであり、また、現実には交通信号機との連動性や自動車の存在(右折、交差)により、こうした効果が必ずしも顕著に現れるとは限らない。従って、数値そのものでの効果を議論することは必要ないが、少なくとも高速化の効果の可能性は示したものと判断できる。
以上により、LRT高速運転用信号システムは、その技術的可能性が高いことを試作装置により確認し、導入効果もありえることをシミュレーションにより検証できたものと考える。