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次に、本シミュレーションによる評価における今後の課題をまとめると、次に示すようになる。

(1) 本シミュレーションモデルと実際の交差点での実交通流との整合性について検証する必要がある。

東京都交通局荒川線との整合性チェックができれば良かったが、荒川線の優先信号は地点制御式のため、本シミュレーションの系統制御式とは異なり、不適当なため、実施できなかった。本モデルに類似し、整合性チェックに適している線区としては、広島電鉄や熊本市交通局等があり、いずれにしても、今後、早急に実施したいと考えている。

(2) LRTを高速化すると、交通信号機におけるジレンマゾーンが拡大するため、この領域を回避する検討が必要である。

ジレンマゾーンとは、車両が交差点に接近したとき、通常の減速度で安全に停止することも、そのまま通過することも両方ともできない領域を云い、車両の走行位置と速度と減速度の関係で規定されるものである1)。このゾーン内にあると、ドライバは黄色信号を見て、ブレーキをかけても速度が高過ぎて信号機の停止線の前までに停止することができず、逆にそのままの速度で走行を続けても、信号機を通過する前に赤信号になってしまい、赤信号で交差点に入り、他車との衝突の恐れがある。この検討では、LRVの減速度の把握が課題で、LRVが交差点に接近した時、交通信号機の「青信号」を延長したり、LRVがこのゾーンに入らないよう管理する等の回避対策が必要である。

(3) スルーバンドに関する更なる理論的な解明が必要である。

旅客流動と交通信号の両者の影響を受けると、LRVの高速化、高加減速化の効果が薄れる場合があることが確認された。この理由は、遅れが生じ、停車時秒が増加すると、スルーバンドから外れるためで、停車時秒とスルーバンドの関係を更に理論的に解明する必要がある。

(4) その他につぎのような課題も検討する必要があろう。

1] 無闇にサイクル長を延ばす必要もなく、停留所数、停車時秒、走行時分によりサイクル長120秒が180秒より優れる場合もある。

2] 在来車の方がLRVよりスムーズに走行する場合もある。そのような場合、LRVに高速許可を与えない方法で運転することができる。

3] 上例の場合などを勘案すると、自動車の上下の流れを優先し、それに路面電車の運行パターンをマッチングさせる方法が実用的で、それに適したシミュレータの開発も一案であろう。

4] 乗客の乗降時分が絡むため、路面電車の停車時分を予測することはなかなか困難である。そこで、路面電車を感応信号制御方式により優先信号とした場合、自動車の遅れがどのように波及するかをシミュレーションすることも必要であろう。

参考文献

1) 交通工学研究会編「交通信号の手引き」、丸善、平成11年7月

 

 

 

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