伊丹 ルイ・パストゥール医学研究センターの研究写真なんですが、小さなキラー細胞ががん細胞を見つけ出して、死滅させる劇的な瞬間、まさに死の接吻といいますか。
堀田 すごい写真ですねえ。
伊丹 少なくとも五〇億個、多い人なら一千億個、キラー細胞があります。でも数よりもむしろ個々の能力、活力が問題なんですよ。
堀田 キラー細胞が元気に活躍してくれればがん予防や治療に役立つし、身体にもいい影響を与える。そしてそのために笑いが非常に効果的だという先生の研究ですね。吉本にも行かれたとか。
伊丹 大阪のなんばグランド花月です。一九名の方にボランティアでお願いして、三時間、漫才、漫談、新喜劇を見て、思いっきり笑っていただいて。
堀田 がん闘病中の方たちも出向かれたんですよね。
伊丹 そうです。十一名が健康な人で、残り八人は乳がん、悪性リンパ腫、糖尿病など何らかの病気で通院している人たちです。ユーモアや笑いが身体にも好影響を与えるという報告は従来から数多くあるんです。ただ、免疫力からみた影響は知られていなかったんですが、結果は私の予想をはるかに超えていました。
堀田 たった三時間笑うだけで、そんなに変わるものなんですか?
伊丹 笑う前後に血液を採ってキラー細胞の活性を測るんですが、平均よりやや低かった人も笑ったあとは全例正常値、もともと正常の人は正常範囲でさらに細胞が活性化されました。(P13表参照)それともう一種類、血液の検査をしたんです。この数値が低過ぎるとがんに対する抵抗力が弱くなって、高過ぎると今度は膠原病やリューマチなどの自己免疫疾患になりやすいという指標なんですが、これも笑う前に低過ぎる人は全例強くなって正常値に近づく。高過ぎる人も全例下がって正常値に近付いている。もともと正常の人はそのまま正常の範囲内なんです。
堀田 人間の身体というのは本当に精巧にできているんですねえ。
伊丹 私たちの体を細菌やウイルスから守ってくれる免疫の、主役ともいうべきリンパ球の働きがこのキラー細胞で変化する。とっても驚くべきことです。