(1) 企業と行政機関との相違点
行政機関への国民満足度を向上させるにあたり、企業マーケティング手法を参考にすることは有意義であるが、手法導入の検討に当たっては企業と行政機関の間に活動目的や特性などの相違点があることを考慮する必要がある。
行政機関と企業の大きな違いはその活動目的にあると考えられる。企業は顧客に対する売上を基に自己の営利を追求する活動主体であり、得意客の満足度を向上させることにより、効率的に利益の確保・維持・拡大(活動目的の達成)を実現することができる。これに対し、行政機関は中立・公平性を重視しながら民主的手続により国民の生活向上をめざす活動主体であり、国民間の利害関係や収入、地域インフラ、情報等の格差を考慮しつつ、中立・公平に国民の満足度を高める必要がある。
また、両者の事業環境にも違いがある。企業の商品・サービスに対する顧客の評価は商品・サービスの品質(内容)、価格、納期といった決定要素を基に行われ、評価が低い場合には、顧客は他の企業の商品・サービスを選択することとなる。従って企業は、競争に勝ち残るためにこれらの決定要素ついて常に改善を強いられることとなる。行政サービスに対する国民の評価も、行政サービスの品質(内容)、納税額や手数料、所要時間の他、中立・公平性等の評価要素を基に行われると考えられるが、評価が低い場合でも国民は他に選択肢がないため、CSの低さが行政機関に対する改善圧力として働きにくい状況となっている。行政機関と自治体の主な相違点を表1-2に整理する。
以上のように、行政機関と企業では活動目的や事業環境に大きな差異があるが、それをもって「行政機関へのCS手法の適用は困難」と即断することは難しい。行政機関においてCS評価が進んでいない理由は上記の差異よりも、国民全体の福祉向上を図ることが目的であり個々の国民の意見まで事業に反映させる必要はないという考えや、国民間の利害関係により優れた施策を立案しても必ず反対する国民は存在するという考えに基づき、国民のCSに積極的に対応しようとする意識が働きにくいと想定される。また、独占的な事業環境や既存施策に対する予算確保の困難さ、日常業務の忙しさ等による改善意欲の低下も想定される。