脳外科の病棟に奥さんを見舞いにくるときにいつも酔っ払ってくるけしからん夫がいる。困っているというケースがありました。ご主人に会って聞きますと、医師はきちんと説明したと私には言われるのですが、夫は、何か女房の頭の中を物干しばさみで挟んだようだというようなことを言う。クリッピングという用語で、彼の中ではそれは髪を留めるクリップとして理解されていた。頭の中にそういうものが入っているのかと思うと、とてもかわいそうで酒でも飲まずに顔を見にこられるかというのがご主人の説明でした。
そのように、それぞれの専門家にとっては全く当たり前の言葉でも、しろうとにはわかりにくいということがいろいろな面でコミュニケーションの壁になる。それを直すためには、わからなそうな顔をしているかどうかを見るということです。そして、わかっていないようだったら質問をする。相手がわからなそうだったら、わかったかどうか質問をする。その繰り返しが必要になってくると思います。
これもその方が治ったのでわかった話ですが、非常に具合が悪いときに、婦長が医師に向かって、「先生、この人悪寒がきている」と言ったのだそうです。「お棺がきた」と聞いて、本人はもうだめかと思ったそうです(笑い)。そういう言葉もご本人が治ったから、笑い話の経験談として話せますが、そのときにはもう自分はだめなのか、柩に入る身なのかと思い込んでしまった。考えてみれば笑い話ではなくて怖い話です。