先入観を持ちすぎない
人間をワクにはめてみることからくる壁もあります。これは個別化といわれながら、その個別化のなかであまりにもワク組みを固くして、患者とは何々である、医者とは何々であるとか、老人とは、婦長とはといった形でレッテルを貼ってしまう。そして自分の貼ったレッテルによって好感を持ったり、あるいは反感を持ったりということが起きてしまいます。思い込みで貼りつけたレッテルにはハロー(光背・後光)効果というのがあります。その方が大変すばらしい経歴を持っていると、後光が射して、その方がしたこと全部がすばらしいようにとれてしまう。だから、その人はこれこれだとレッテルを貼ってしまうと、実際のその方の姿を見るのではなくて、レッテルのほうが一人歩きをしてしまうこともある。
病院で仕事をしていたころ、あるお年よりが「うちはイヌにも名前がついてます」とどなりこんできたことがありました。何のことだかさっぱりわからなかったのですが、よく聞いてみたら、機能訓練で、「おじいちゃん、そこに横になって」と若いPTに言われたのだそうです。PTには全く悪気はなかったのですが、その方にしてみたら、自分の名前をきちんと呼ばれることがとても大切だった。それに抗議したいがために「うちにはイヌにも名前がある」というところから始まったのです。
ある関西の国立病院の婦長の話ですが、若い看護婦でとても熱心な人が、患者からたいへんお叱りを受けた。理由は、日本を代表する企業の会長に、「おじいちゃん、つめ切ったろか?」と言ったのだそうです。