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しかし、あまり思い込みが強くて、相手は全くそうでないのにこちらが勝手に思い込んでしまうと、これもまた問題になります。

パリにたいへん貧乏な若い画家がいました。街角のパン屋さんにいつも前の日のパンの耳をもらいにくるのです。パン屋で働いていた若い娘さんが、青年画家がおなかをすかせてかわいそうに、いつも古いパンの耳しか食べていないのだと思って、ある日こっそりと焼きたてのホカホカのパンにバターとジャムをこってりと塗って渡しました。少したったら、その画家が自分の絵をめちゃめちゃにしてしまったと、血相を変えてどなり込んできた。彼はデッサンをしていて、消しごむのかわりに古いパンの耳を使っていた。それがジャムとバターがぺタッと絵について、絵がダメになってしまったのでは怒るのも当たり前です。こちらはよかれと思ってしたことでも、小さな親切、大きなお世話になってしまうということもある。相手の生活背景がわからないでこちらの価値観を押し売りしてしまうと、自分は親切のつもりでも相手にはとんだ迷惑をかけるということにもなります。ですから話し合いをしている2人の生活背景や経験が全く違う場合には、コミュニケーションに壁ができる可能性があるのです。

 

 

 

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