見上げる、見下ろす
いま、頭の上から言われたときに、何となく頼りたいという感じで、ご自分の悩みなどを打ち明けたいような気分になった方もおられたかもしれません。これもやはり子供が親にすがるときの状況です。「夏休みの宿題どうなってるの?」「まだできていないの。手伝って」というときは、子供は親の顔を見上げます。ですから力があるもの、権威に対しての子供の視線は見上げる視線になっているということです。医師に「どうですか?」と言われたときに、ベッドに横になっている患者さんは訴えかけたくなることが多いということでしょうか。
患者が甘えているとか、退行(子供返り)していると批判するのではなくて、患者の気持ちの中にある頼りたいという正常な気持ちの反応として理解することが大切です。いきなり頭ごなしに言われたりすると自分が人間扱いされていないような、そして訴えたいことがあっても言い出しにくいような状態になるのは、権威のある親に対する子供の反応と同じだと考えると、上手にこころを開ける話し合いのお膳立てをする必要があることがわかります。
私は数年前に転倒して足首を折って、車椅子の生活を余儀なくされたことがあります。片足を外につき出しているので、車椅子に乗っていて一番目につくのは、向こうから突進してくる人の持っている大きなバッグです。その人たちがこっちへ向かって突進してきても、多分ぶつかる前には止まってくれるだろうと頭ではわかっているのですが、本などが入っていそうな大きな重たいものがこちらに向かってくるのは、とても怖い気持ちがしました。